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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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 ここから愁斗のマンションまではだいぶ距離がある。電車を使わなければ帰れない距離だ。
 迷わず愁斗は地下鉄を利用することにした。
 地下に下った愁斗は券売機に前に立って、ある重大なことに気がついた。
「財布を持っていなかった」
 以外にズボラな愁斗だった。

 行き詰まりを覚えていた調査の情報を得た撫子はマンションを飛び出した。
 彪彦から何も情報をもらっていなかった撫子は情報収集に苦労していた。そこへ組織からの電話があり、翔子を帰らせて家を飛び出したのだ。
「にゃ〜もう、忙しぃ〜!」
 撫子の向かっている場所は雪夜の家であった。撫子の住むマンションからはそう遠い距離ではないが、走っている撫子には長い道のりだ。全く余裕で息を切らせる様子がないのは撫子が普通の女子中学生ではないからだ。
 しばらくして、前方から撫子の知り合いが歩いて来るのが見えた。それは奇妙な体験をして来た麻那と隼人だった。
 撫子は急いでいたがいちよう挨拶をする。
「にゃば〜ん! こんちわッスお二人さん」
 そのまま撫子が通る過ぎようとすると、麻那の手が素早く動いて撫子の背中を捕らえた。
「待ちなさいよ!」
「うがっ! にゃに? アタシマッハで急いでるんですけどぉ〜!」
「いいから、あたしの話を聞きなさい!」
 出遭った途端に怒られて撫子は露骨に嫌な顔をして見せた。
「ぷぅ〜、横暴だぁ〜」
「いいものあげるから手を出しなさい」
「いいもの!」
 撫子の目がキラキラと輝いた。
 麻那はバッグから二枚のチケットを出して撫子の手のひらに置いた。あのテーマパークのチケットだ。
「はい、大事にしなさいよ」
「爆マジ!? ってこれって隼人センパイとラヴラヴデートするためのじゃにゃいんですかぁ?」
 鋭い撫子の私的に異様に麻那は動揺して顔を真っ赤にしながら怒りだした。
「そ、そんなことないわよ! あたしと隼人がデートって、付き合ってもないし、こんな頼りない優男なんて……その、もういいから、黙って受け取りなさいよ!」
「ほ〜い、黙って受け取って置きま〜す」
 麻那がチケットをあげた理由は隼人との相談の結果だった。二人は当分の間、テーマパークには行きたくない気分で、あの出来事は二人の中でなかったことにしようと決めたのだ。そこで、誰かにチケットを譲ろうとということになり、たまたま出会った撫子にチケットをあげたのだ。
 チケットを偶然にも手に入れた撫子はあるセリフを言ってから急いで逃げた。
「お二人とも、お幸せにぃ〜!」
「違うって!」
 麻那の声を背中に浴びながら撫子は走った。
 もらった二枚のチケットを見ながら撫子は独り言をしゃべる。撫子は独り言が多く、それは呟くというレベルではなく、普通のしゃべる声の大きさで独り言をしゃべる。
「このチケットどうしよー。これペアチケットでしょ、アタシ一緒に行く恋人いにゃいよ……あっ、翔子にあげて愁斗クンとのラヴラヴデート大作戦に役立ててもーらお」
 走り続けていた撫子はようやく雪夜の家に到着した。
 雪夜の家は住宅街のどこにでもあるような二階建ての一軒家だった。
 家を見回した撫子は何とも言えない感じを家から感じ取った。
「爆魔導波っ!」
 普通の人にはわからないが、この家はもの凄い悶々と魔導を辺りに撒き散らしていた。きっとこの辺りは事故などが多いに違いないと撫子は思った。
 家の敷地に足を踏み入れただけで撫子の身体に静電気みたいなものが走った。
 撫子は魔導士ではないが、魔導を感知する能力に関しては普通の魔導士よりも高い。だが、このように大きな魔導が渦巻く場所では、それが仇となってしまう。撫子は魔導を感知する能力には優れていても、それに対する耐性は感知能力に見合っていないのだ。
 玄関のドアにかけた撫子であったが鍵は開いていない。当然と言えば当然だ。
「ここで一発、撫子ちゃんマジック!」
 撫子は人間とは思えないほどのジャンプ力で一気に二階の屋根に上った。そして、すぐにベランダに忍び込んだ。
 窓は閉まっているが鍵が開いているのが見える。撫子はニヤニヤしながら窓を開けた。
 が、窓を開けた瞬間、撫子は後ろに吹き飛ばされそうになった。家の中から外に魔導を含んだ空気が一気に流れたのだ。
 家の中に入った撫子は驚愕するとともに、自分の行動が迂闊だったことに気がついた。
 入って来た窓がない。それどころか窓越しに見た部屋の中とは全く違う部屋なのだ。
 部屋の中は普通の家の中といった感じで、家具などが置いてあり生活観に溢れている。だが、撫子は息苦しさを感じた。
「うげうげぇ〜」
 撫子はヨロウロしながら歩き出し、雪夜の部屋を見つけに歩き出した。
 どうやら撫子が現在いる場所は居間のようだった。
 襖を開けて次の部屋に入った撫子は頭を抱える動作をしてうずくまった。
「烈にゃんじゃこりゃ〜!」
 撫子のいる場所はトイレだった。居間の襖を開けてトイレに行くなど普通の家ではありえない。
「トイレに行きたいかにゃぁって気持ちはあったけど、こういう展開は予期せぬ展開だよぉ。と思いつつも少しトイレタイム」
 しばらくして水の流れる音が聞こえて撫子がトイレから出て来た。だが、ここはバスルームだった。
 もう出す声もなかった。ということもなく、撫子は間を置いて叫んだ。
「にゃーっ!」
 怒りを露にしながらも撫子はこういう時のためのマニュアルを思い出した。
 撫子は浴槽に水が張ってあるのを確認すると、勢いよく飛び込んだ。
 大きな水しぶきを上げて撫子の姿が水の中に沈んだ。次の瞬間、撫子は天井からベッドの上に落っこちた。水の中が別の場所に繋がっていたのだ。
 全身ずぶ濡れの撫子は身体をぶるぶるっと震わせて水しぶきを辺りに撒き散らした。
「絶対アタシはこの家におちょくられてる」
 ベッドのシーツを剥ぎ取ってタオル代わりにして全身を拭き、撫子はもう一度全身をぶるぶると振るわせた。
 どうやらここは寝室のようで、ベッドが二つ並んで置いてある。
 部屋にはドアは一つしかない。だが、撫子は迷わず窓を開けて外に出た。
 窓は横開きであったはずなのに、なぜか撫子は冷蔵庫の冷蔵室から中から出て来た。
 次に撫子は迷うことなく冷蔵庫の野菜室に入った。
 撫子は住宅街のど真ん中のマンホールから這い出て来た。
 辺りを見回す撫子。ここは普通の住宅街ではなく、おもちゃのブロックで作られた住宅街だった。ブロック一つ一つの大きさも通常では考えられないほど大きい。
「うっそ〜、爆マジ!? もう、いい加減にしてよぉ〜」
 撫子は心身ともにどっと疲れてしまって、プラスチックの地面にへたり込んだ。そして、そのまま背中から地面に寝転んだ。
 空は青かった。だが、本物の空ではなくて、天井を空色に塗りつぶしたように見える。
「目的の部屋にはいつ辿り着けるんだろうか……しみじみ撫子ちゃんでした」
 ここで撫子はある重大なことに気がついた。
「てゆーか、外に出れるの!?」
 このまま迷い続けたら、目的の部屋に着けないどころではなく、一生外の世界に出られないかもしれない。
「にゃはは〜、切実な問題だねぇ〜」