表と裏の狭間には 十四話―様々な変革―
五月のゴールデンウィーク。
中でもその真ん中に陣取る三連休、その初日。
五月三日。
我が家は大忙しだった。
何故か。
「お兄ちゃん!荷物まとめられた!?」
「まとめるまでもなく業者が持っていってるだろうが!」
引越しである。
先月、ゆりたちから誘われた俺は、半月ほどかけて正式に引越しの手はずを整えた。
そして、業者を呼んで家具を運び出している。
俺と雫は小物をダンボールに梱包しているところだ。
皿や衣服、靴、本、DVDなど。
雫は更に化粧品関連などもある。
今日の家は本当に慌しい。
今頃向こうではゆりたちが準備をしているはずだ。
………そういえば、あいつの家、まだ見たことなかったな。
住所だけは教えてもらっていたが、行く機会がなかったからな。
まぁ、ゆりの家がどんな家かは、着いてからのお楽しみってやつか。
「こっちは終わったよ。お兄ちゃんはどう?」
「ああ、俺ももう終わる。………これでよし。」
荷物をどうにか包み終え、それを業者が運び出す。
俺たちは、一年ほど住んだこの家に別れを告げる。
光坂に引っ越して、ここで眠り、学校に通い、ゆりたちや蓮華と出会った。
成り行きでアークにも入隊し、銃器や体術の訓練を受けた。
抗争にも何度か参加した。
そして、蓮華と雫が、最悪の出会いを果たしたのもここだ。
そして、今日。
俺たちはこの家から出て、新しい家に住む。
それも、俺と雫が信頼する仲間の家だ。
かなり楽しみだった。
「じゃ、行くか。」
「うん!」
俺たちは車を持っていないので、タクシーで移動する。
既に呼んであったタクシーに乗り込むと、業者のトラックの後に続くように告げる。
トラックが発進し、タクシーがそれに続く。
さて。
今日は忙しくなりそうだ。
「でけぇ………。」
「やほー紫苑。どう?これが我が家だ!」
ゆりの家は、豪邸、と呼ぶに相応しい家だった。
例えば某SOS団夏の合宿の地に選ばれた孤島の館。
例えば某横浜に立っていると言われている紅鳴館。
そんな感じの館だった。
門から続く広い庭、その向こうに建つ美しい館。
「業者さん!こっちこっち!」
家の中から出てきた煌たちが荷物を持った業者を誘導する。
「紫苑の話だと、家具はないんだよね?」
「ああ。部屋の備品だけで足りたから、買ってない。」
「じゃぁ、荷物だけなのね?」
「そうだ。」
「じゃ、とりあえず二人の部屋に適当に運んでもらうから、後で二人で分配して。輝、そういうことでよろしく。」
「了解っす。」
いつの間にか俺たちのそばに来ていた輝が、ゆりの指示で業者を誘導し始めた。
「二人はこっちに来て。まず館の中を案内するわ。」
と言うゆりに連れられて、俺と雫は、この大きな館を歩き回ることになった。
外見は洋館だが、玄関で靴を脱ぐ形式のようだ。
玄関で靴を脱ぎ、広々としたロビーに上がる。
正面に階段、左手にドア。右手には廊下が広がっている。
「この左のドアを開けると食堂よ。基本的にうちの食事は全てここで作ってここで食べるわ。」
ゆりが部屋を紹介し、次に進む。
「階段はここと、廊下の向こう端の二つ。トイレは一階と二階の階段脇よ。一階の設備は大浴場と、居間、遊戯室、書庫、えーと、あとなんだったかしら………。映画室?視聴覚室?まぁ、そんな感じの部屋ね。二階には十部屋くらいかしら?」
ゆりが一階の廊下の向こうを指差して解説する。
廊下の右側、つまり庭のある方向には一定間隔で窓が配置されている。
反対側にはドアがまばらに配置されている。
うーん、どれも似たようなドアで、配置を間違えないようにしないとな。
俺たちは、二階へと案内される。
二階も、一階と同じように庭のある方向には窓がある。
その反対側にドアが等間隔で並んでいる。
おそらく、それが個室なのだろう。
「手前から順番にあたし、煌、輝、耀、礼慈、理子、蓮華よ。その向こうの二つがあんたたち二人の部屋よ。どっちがどっちの部屋になるのか、二人で決めなさい。」
ゆりはそう言ったが…………。
「あの泥棒ネコの隣なんて嫌です!」
雫はこの調子だし、俺が蓮華の隣の部屋ってことになるんだろうなぁ………。
と、そんな事を考えていると。
今ゆりが指し示した二つの部屋から、業者の人たちが出てきた。
「仕事は以上で終了です。お疲れ様でした。」
「あ、ありがとうございました。」
そのまま報酬の支払い等を済ませ、業者の人と別れる。
「じゃ、他の連中も散り散りになってるし、七時まで荷物の整理に当てなさい。」
と、言うことで解散となった。
夜。
荷物を振り分けて部屋の家具に収めるだけで、かなり時間がかかった。
しかし、この部屋の備品、すごい充実しているな。
そこそこ広々とした部屋に、大きなベッド、テレビ、ブルーレイ、勉強用のシステムデスクと、かなりのクオリティだ。
他にも、箪笥やクローゼット、本棚など様々な備品がある。
家から持ってきたゲーム機は、とりあえずの間雫の部屋に置いておくとして。
デスクに俺のパソコンを設置する。
教科書などを本棚に詰める。
クローゼットに当面使う服を入れ、箪笥にそれ以外の服を詰め込む。
それらが全て終わった後、ベッドに倒れこんで深く深呼吸する。
この部屋はよく清掃されていて、ベッドも新品だった。
今日のために手入れしたのだろう。
俺はベッドから立ち上がり、家で使っていたシーツと布団、それに、枕を配置する。
まぁ、今は真新しい部屋だけど、使っているうちに馴染むだろう。
ベッドに仰向けに寝転がって、ボーっとしていると。
部屋をノックする音が響いた。
「へい。」
扉を開けると、そこにはゆりが。
「そろそろ夕食にするから、食堂に来なさい。」
「ああ、了解。」
それだけ告げると、ゆりはさっさと階段を下って一階に向かってしまった。
俺も、部屋を出て、雫に声を掛けてから階下に向かった。
食堂は広々とした部屋だった。
十人くらい座れそうな大きな長方形のテーブル、そこには椅子が九脚並べてあり、そこには既に俺と雫以外の七人が座っている。
横向きに置いてあるテーブルの手前と向こうに四人ずつ、左端に一人座るようになっている。
左端にはゆりが座り、そこから煌と輝、耀と理子、礼慈と蓮華の順番に座っている。
ゆりの向かいには大画面のテレビが設置してあり、七時のニュースを映している。
テーブルの向こう側には、厨房と思われる空間がある。
卓上には既に料理が並べられている。
「紫苑、雫ちゃん。そこの端が二人の席よ。テレビに一番近い特等席じゃないよく見れば!」
「いきなり怒鳴るな。まぁ、座るか。」
「はいです。」
俺と、雫、着席。
左隣に蓮華、正面に雫、斜向かいに礼慈が座っている。
蓮華の更に隣に耀、耀の向かいに理子、理子の左側に煌、その向かいに輝。その左、テレビを正面に据えるのはゆりだ。
いつものメンバーだ。
そうそう、蓮華は髪を切ってショートカットになっていた。
四月の騒ぎで髪が痛んだ蓮華は、痛みがあまりに酷かったため、ストレートをばっさりと切り落としたのだ。
「じゃ、今夜の夕食はお寿司よ!今日は紫苑と雫ちゃんの入居祝いだもんね!」
パチパチパチパチ、と小さな拍手が。
こいつら、やっぱりノリがいいな。
中でもその真ん中に陣取る三連休、その初日。
五月三日。
我が家は大忙しだった。
何故か。
「お兄ちゃん!荷物まとめられた!?」
「まとめるまでもなく業者が持っていってるだろうが!」
引越しである。
先月、ゆりたちから誘われた俺は、半月ほどかけて正式に引越しの手はずを整えた。
そして、業者を呼んで家具を運び出している。
俺と雫は小物をダンボールに梱包しているところだ。
皿や衣服、靴、本、DVDなど。
雫は更に化粧品関連などもある。
今日の家は本当に慌しい。
今頃向こうではゆりたちが準備をしているはずだ。
………そういえば、あいつの家、まだ見たことなかったな。
住所だけは教えてもらっていたが、行く機会がなかったからな。
まぁ、ゆりの家がどんな家かは、着いてからのお楽しみってやつか。
「こっちは終わったよ。お兄ちゃんはどう?」
「ああ、俺ももう終わる。………これでよし。」
荷物をどうにか包み終え、それを業者が運び出す。
俺たちは、一年ほど住んだこの家に別れを告げる。
光坂に引っ越して、ここで眠り、学校に通い、ゆりたちや蓮華と出会った。
成り行きでアークにも入隊し、銃器や体術の訓練を受けた。
抗争にも何度か参加した。
そして、蓮華と雫が、最悪の出会いを果たしたのもここだ。
そして、今日。
俺たちはこの家から出て、新しい家に住む。
それも、俺と雫が信頼する仲間の家だ。
かなり楽しみだった。
「じゃ、行くか。」
「うん!」
俺たちは車を持っていないので、タクシーで移動する。
既に呼んであったタクシーに乗り込むと、業者のトラックの後に続くように告げる。
トラックが発進し、タクシーがそれに続く。
さて。
今日は忙しくなりそうだ。
「でけぇ………。」
「やほー紫苑。どう?これが我が家だ!」
ゆりの家は、豪邸、と呼ぶに相応しい家だった。
例えば某SOS団夏の合宿の地に選ばれた孤島の館。
例えば某横浜に立っていると言われている紅鳴館。
そんな感じの館だった。
門から続く広い庭、その向こうに建つ美しい館。
「業者さん!こっちこっち!」
家の中から出てきた煌たちが荷物を持った業者を誘導する。
「紫苑の話だと、家具はないんだよね?」
「ああ。部屋の備品だけで足りたから、買ってない。」
「じゃぁ、荷物だけなのね?」
「そうだ。」
「じゃ、とりあえず二人の部屋に適当に運んでもらうから、後で二人で分配して。輝、そういうことでよろしく。」
「了解っす。」
いつの間にか俺たちのそばに来ていた輝が、ゆりの指示で業者を誘導し始めた。
「二人はこっちに来て。まず館の中を案内するわ。」
と言うゆりに連れられて、俺と雫は、この大きな館を歩き回ることになった。
外見は洋館だが、玄関で靴を脱ぐ形式のようだ。
玄関で靴を脱ぎ、広々としたロビーに上がる。
正面に階段、左手にドア。右手には廊下が広がっている。
「この左のドアを開けると食堂よ。基本的にうちの食事は全てここで作ってここで食べるわ。」
ゆりが部屋を紹介し、次に進む。
「階段はここと、廊下の向こう端の二つ。トイレは一階と二階の階段脇よ。一階の設備は大浴場と、居間、遊戯室、書庫、えーと、あとなんだったかしら………。映画室?視聴覚室?まぁ、そんな感じの部屋ね。二階には十部屋くらいかしら?」
ゆりが一階の廊下の向こうを指差して解説する。
廊下の右側、つまり庭のある方向には一定間隔で窓が配置されている。
反対側にはドアがまばらに配置されている。
うーん、どれも似たようなドアで、配置を間違えないようにしないとな。
俺たちは、二階へと案内される。
二階も、一階と同じように庭のある方向には窓がある。
その反対側にドアが等間隔で並んでいる。
おそらく、それが個室なのだろう。
「手前から順番にあたし、煌、輝、耀、礼慈、理子、蓮華よ。その向こうの二つがあんたたち二人の部屋よ。どっちがどっちの部屋になるのか、二人で決めなさい。」
ゆりはそう言ったが…………。
「あの泥棒ネコの隣なんて嫌です!」
雫はこの調子だし、俺が蓮華の隣の部屋ってことになるんだろうなぁ………。
と、そんな事を考えていると。
今ゆりが指し示した二つの部屋から、業者の人たちが出てきた。
「仕事は以上で終了です。お疲れ様でした。」
「あ、ありがとうございました。」
そのまま報酬の支払い等を済ませ、業者の人と別れる。
「じゃ、他の連中も散り散りになってるし、七時まで荷物の整理に当てなさい。」
と、言うことで解散となった。
夜。
荷物を振り分けて部屋の家具に収めるだけで、かなり時間がかかった。
しかし、この部屋の備品、すごい充実しているな。
そこそこ広々とした部屋に、大きなベッド、テレビ、ブルーレイ、勉強用のシステムデスクと、かなりのクオリティだ。
他にも、箪笥やクローゼット、本棚など様々な備品がある。
家から持ってきたゲーム機は、とりあえずの間雫の部屋に置いておくとして。
デスクに俺のパソコンを設置する。
教科書などを本棚に詰める。
クローゼットに当面使う服を入れ、箪笥にそれ以外の服を詰め込む。
それらが全て終わった後、ベッドに倒れこんで深く深呼吸する。
この部屋はよく清掃されていて、ベッドも新品だった。
今日のために手入れしたのだろう。
俺はベッドから立ち上がり、家で使っていたシーツと布団、それに、枕を配置する。
まぁ、今は真新しい部屋だけど、使っているうちに馴染むだろう。
ベッドに仰向けに寝転がって、ボーっとしていると。
部屋をノックする音が響いた。
「へい。」
扉を開けると、そこにはゆりが。
「そろそろ夕食にするから、食堂に来なさい。」
「ああ、了解。」
それだけ告げると、ゆりはさっさと階段を下って一階に向かってしまった。
俺も、部屋を出て、雫に声を掛けてから階下に向かった。
食堂は広々とした部屋だった。
十人くらい座れそうな大きな長方形のテーブル、そこには椅子が九脚並べてあり、そこには既に俺と雫以外の七人が座っている。
横向きに置いてあるテーブルの手前と向こうに四人ずつ、左端に一人座るようになっている。
左端にはゆりが座り、そこから煌と輝、耀と理子、礼慈と蓮華の順番に座っている。
ゆりの向かいには大画面のテレビが設置してあり、七時のニュースを映している。
テーブルの向こう側には、厨房と思われる空間がある。
卓上には既に料理が並べられている。
「紫苑、雫ちゃん。そこの端が二人の席よ。テレビに一番近い特等席じゃないよく見れば!」
「いきなり怒鳴るな。まぁ、座るか。」
「はいです。」
俺と、雫、着席。
左隣に蓮華、正面に雫、斜向かいに礼慈が座っている。
蓮華の更に隣に耀、耀の向かいに理子、理子の左側に煌、その向かいに輝。その左、テレビを正面に据えるのはゆりだ。
いつものメンバーだ。
そうそう、蓮華は髪を切ってショートカットになっていた。
四月の騒ぎで髪が痛んだ蓮華は、痛みがあまりに酷かったため、ストレートをばっさりと切り落としたのだ。
「じゃ、今夜の夕食はお寿司よ!今日は紫苑と雫ちゃんの入居祝いだもんね!」
パチパチパチパチ、と小さな拍手が。
こいつら、やっぱりノリがいいな。
作品名:表と裏の狭間には 十四話―様々な変革― 作家名:零崎