不思議な空間
「わたしも、良平さんのこと、ずっと前から好きだったような気がするの」
北は急に立ち止って祥子を抱きしめた。
「この感じ、やっぱりそうだ。どこかで祥子さんと、こうしたことがあるような、そんな気がする……」
「わたしも今、そう思うわ。出会ったばかりの人とは思えないの」
数十秒間抱き合っていたふたりは、再び手を繋いで歩き始めた。しばらく歩いて岩場の近くまで来た。そこで祥子と北は立ち止まった。砂浜がもっと長く続いていれば良いのにと、北は思った。そこは二時間余り前、ふたりが初めてことばを交わした場所だった。風の冷たさが心地よかった。潮騒が懐かしい歌のように聞こえていた。
了