不思議な空間
まるで絵が下手なのに何度も個展を重ねている裕福な友人を、北は思い出していた。
「いいじゃないですか。一度はしてみたいの」
「聖子さんは何に使うんですか?」
それは北からの質問だった。
「バッグとか洋服ね」
「私は世界中の恵まれない子供たちに贈りたい」
北は半分ウケ狙いで云ったものの、誰も反応しないのですぐに後悔した。
「ちょっと足りないでしょ。百万円じゃあ」
聖子はもっと辛辣に云いたかったような雰囲気である。
「チェロをね、買ったんですよ」
唐突に佐島が云った。
「チェロですか!いいんですよね、あの響き」
由紀が嬉しそうに云った。
「車に載せてきました」
「そうなんですか!じゃあ、聴かせてもらいましょう」
北がそう云うと、女性たちが拍手をしたので、彼も拍手をした。そのあとで北が云った。
「チェロというと、面白辛い記憶があります」