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てっしゅう
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「愛されたい」 第八章 約束の日

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「そうなの・・・恥ずかしいけど、別々なのよ」
「そうでしたの・・・」
「ごめんなさいね、変なこと話して。立ってないでベッドに座って」
「ハイ」

智子は何から話そうか迷っていたが、初めに横井が逢いたがっていることから切り出した。
「お父様は美咲ちゃんにとても逢いたいって話されていたわ。小学校六年の時から逢ってないから、どんな子になっているんだろうかって楽しみにされていたし」
「そうですか。母から父のことは聞かないようにって言われていましたが、美咲はお父さんに逢いたいです。小さいころは毎日のように遊んでくれたし、お風呂も一緒に入っていました。母とも仲がよかったのに、なぜ浮気なんかして母を苦しめたのか判りません・・・許せないかも知れませんが、でも逢いたいってこのごろ強く思うんです。なぜでしょう?おば様」
「それは、あなたのことを一番可愛いって思っている人だから、その思いがあなたに届いているのよ。何があったのか知らないけど、美咲ちゃんにとってお父様は一人だけなの。許してあげて・・・おばさんお父様が悪いって思えないの。逢って話してよく考えてみて」
「はい、ありがとうございます。どうしたらいいのでしょう?」
「お父様に連絡して逢う日を決めましょう。日曜日がいいわよね?」
「出来ればそれがいいです。土曜日でも構いませんが」
「じゃあ待ってて、今から電話するから」

智子は携帯を手にして横井に掛けた。
「今電話いいですか?」
「智子か・・・どうした、構わないけど」
「目の前に美咲ちゃんがいるの」
「美咲が!本当か?」
「ええ、本当です。代わりましょうか?」

横井は心臓がどきどきしてきた。
「うん、代わってくれ」

「美咲ちゃん、お父様よ。変わってあげるからお話して」そう言って携帯を差し出した。
「はい、ドキドキします・・・」
「大丈夫よ、優しい人だから」笑顔で美咲を見た。

「もしもし、美咲です。お父さん?」
「美咲か・・・声が大人になったなあ。お父さんな・・・ずっとお前のこと忘れたりしなかったよ。逢いたいってどんなに思っていたか・・・ゴメンな・・・」声がかすれて言葉にならなかった。
美咲はもう泣いていた。ぽろぽろ零れる涙を拭おうともせず、時々鼻をすすり上げながら話していた。

「美咲も・・・お父さんに・・・逢いたかったよ。お母さんに言えなかったからずっと苦しんできた。怒らないから逢って美咲に全部話してくれる?」
「そうだな・・・早い方がいいな。今度の日曜日にしよう。島田にいるんだろう?地下鉄で平針(ひらばり)まで出ておいで。記念病院の前にあるファミレスで逢おう」
「うん、お母さんにはなんて言うの?」
「友達と会うとでも言ってくれないか。まだきっと許さないと思うから」
「そうする。お父さん一人で来るのよね?」
「もちろんだよ。誰と行くと思ったんだ?」
「再婚していると思ったから・・・」
「一人だよ。ずっと一人だよ」
「うん、良かった。楽しみに待ってるから。おばさまに電話返すから切らないでね」

美咲は「ありがとうございました」と頭を下げて電話を智子に返した。
「智子です。良かったですね。逢えるんですね、きっと解ってもらえると思いますよ。美咲ちゃんはとってもいい子ですよ。楽しみになさって下さい。では・・・」
「智子、ありがとう。なんと言っていいか解らないけど、おれには最高の出逢いになったよ。じゃあ一日に行くからその時に顔が見れるね」
「はい、またゆっくりお話聞かせてください」

「おばさま、お父さんのことで何か知っているんですか?」
「どうしてそう思うの?」
「親しそうに話されていたから・・・」

智子はちょっとドキッとした。
「一緒に働いていた人だからね。研修旅行も一緒に行ったし、いろんなお話はしていたのよ。でも、あなたのことは何も聞いていなかった。本当よ」
「はい、すみません、変な事聞いて・・・じゃあおばさま帰ります」

高志とあまり話すこともせずに美咲は帰っていった。入れ違いになるように夫が帰ってきた。

「あなたお帰りなさい」
「ああ、ただいま」そう言っていつものとおり自分の部屋に入ってしまった。
智子は忘れるといけないと思って、横井にメールを入れた。「美咲ちゃんに奥様の浮気のことは話さないようにしてね。あなたが悪者になって謝れば、今の彼女なら許してくれるから。それだけは私からお願いしたの」
返事が来た。

「智子の優しさと気遣いに涙が出たよ。今すぐに逢いたい!無理だと解っていても逢いたい!」
「行雄さん・・・私も逢いたい。もうあなたのこと忘れられないの。でも、今は娘さんの事だけ考えてあげて。あなたと暮らせるようになるといいわね。そのために最大の努力をして。私のことはその次で構わないから・・・逃げたりしないから」

智子は横井と美咲が一緒に暮らせるようになれば、自分への気持ちも少しは和らぐかも知れないと思った。そして、高志と美咲の交際が続けばお互いの思いも二人の幸せのために諦められるだろうと考えていた。でも、心の奥底にもし高志と美咲が他人になったらどうしようと言う迷いも残ってはいた。

夕飯が済んで、朝言われたとおりに智子は伸一の部屋に行った。
「あなた智子です。入りますよ」
「ああ、いいよ」
「どうなさったのですか?珍しいお話なんて」
「座れよ」
「はい」
「正月からずっと考えていたんだが、このままじゃお互いに無理を続けるだけになると思うんだよ。お前がおれに隠していた事はおれの心から消え去らないんだ。子供に関係ないって言われてもな、許せないんだ。おかしいと思うのだろうが、気持ちが変わらない以上夫婦としてはやってゆけないよ。子供の学費はおれが払う。それまでのここの生活費も払うから、離婚してくれないか?」

何の話だろうと思ったらいきなり離婚してくれ、と言われて智子はビックリした。

「あなたいきなり離婚なんて酷いじゃないですか!あなたが何で私の過去にこだわっているのか理解できないけど、それはそれで忘れようって思われないの?そんなに無理なことなの?」
「無理だ・・・おれはお前以外に知らない。お前もそうだと信じていたから、どんなときも我慢してやって来た。今はそれが無くなったから耐えられない」

この人は私じゃなくても初めての女性だったら誰でも良かったのかとさえ勘ぐってしまう言葉を聞いた。

「あなたにとって妻になる人は私じゃなくても初めての女性だったら誰でも良かったのですか?」
思い切ってそう尋ねた。

「何を言ってるんだ!お前が純情だと信じたから好きになったんだ。誰でも良かったなんて侮辱するな」
「侮辱しているのは、あなたのほうよ。学生の頃にはあなたとは出会ってもいなかったのよ。あなたの事好きになって結婚したいって思った私に、どうしろと言いたかったの?」
「過去のすべてを何故言わなかったんだ?」
「あなたそれを私に聞いたの?何も言わなかったじゃない」
「勝手に信じたおれがバカだったって言うわけか」