中秋の名月
「アハハ、そんなの迷信だろ?」
帰り道に友人にちょっとしたうんちくのつもりで言ったのだが、はなっから笑われ否定された。
「勇、ちげぇって。昔はそう思われていたんだって」
「それでもな、昔ってまだ地球が平たいお盆だとか言っている時代だろ?そんな時代に信じられていた話なんて、迷信以外になんていったら良いんだよ。彰さん?」
「そんなこと分かってるって」
そんなことは、もう当の昔に現実的でないことは知っている。あの無酸素状態のところで、地球上の生物が住める訳が無いのだ。
「じゃあ、何で急にそんな話しを持ちかけたんだよ」
「いや、今日中秋の名月だって日本史の授業で坂本が言ってたじゃん。そこで思い出したんだよ」
「ああ、なるほどね。あの授業のとき、俺は団子が食えることしか考えなかったけどな」
中秋の名月とは、陰暦八月の十五夜の月のこと。名月だけでも俳句の季語として使われるのだそうだ。兎が月で餅をつくという話は、月の影が角度によって、兎が餅を丸めている様に見えるというところから来ているのだそうだ。この月の影は、他国から観ると蟹や女性の横顔にも見えるとどこかの図鑑で読んだことがある。しかし、現代の人の肉眼では月がぼうっと光っているだけで、模様なんて見えない。古来の人は相当目が良かったのだろうか。
そういえば、中学の頃の十五夜の日の給食は、お団子が出だったっけな。僕はふとそんなことを思った。
『『グ〜キュルル』』
と物思いに耽っていると僕と、隣を歩いていた勇の腹が同時に鳴った。
「なあ、彰。俺腹が減ったよ。途中、コンビニで買っていかねえか。団子」
そういえば、自分も空腹に浸っているのだとようやく気が付き、苦笑が漏れた。自分もまだまだ育ち盛り。感傷に浸るよりも食い気の方が上手のようだ。
「良いぜ。ついでにススキも貰っていくか」
「はいはい。それよりも早く団子買って帰ろうぜ」
そんな二人を夕暮れの月は笑うでもなくそっと照らしていたとさ。