禁断の扉(改訂版)
か乙女のように瞳をキラキラさせて鏡を見つめている。
「綺麗になれる?」ボクの中のもう一人のボクがそう言った。
「もちろんよ、今準備するからね、」
小島さんは嬉しそうにボクの髪をヘアピンで止めると、化粧ケープを首からかけた
隣の席では若い女性が瞳を閉じてパタパタとパウダーファンデーションをはたかれ
て化粧をされている。肌がきめの細かいより女性らしい肌になっていく、
ボクもあんなふうにされて女になっていくんだ、いい女に、より女らしい女に・・・
そして心の中まで女になっていって、女らしい服を着て女らしくふるまうようになっ
て、男の人に愛されて 結婚して、家庭に入って お料理したり、お洗濯したり
お掃除したりするようになって、女って素敵、生まれ変わっても女がいいわ、って
思うようになる、でもそれでいいのか?・・・
”いいじゃないそれも”もう一人のボクがボクの心の中で応えた。
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「ちょっと瞼を閉じていてね」
「はい」
いつの間にかボクも隣の女性のように瞳を閉じ、パウダーファンデーションをはた
かれている。
普通の男なら化粧品の匂いがプンプンする状況で、大人しくじっと化粧されるとい
うことは耐え難いことであり、ナンセンスだと思うでしょう?、でも心が女性化し
てくると、綺麗になることは身だしなみと思えるようになる。いつも人前では美し
くないと、という自我が生まれてきて、化粧しないといられないの。
眉毛をわざわざ抜いて筆で書いたり、睫毛をビューラーでくるっと巻いて上向きに
したり、付け睫毛を糊で丁寧につけたり、口紅の色とか頬紅の色をどんな色にしよ
うかと迷うのも女なら普通のこと、男には理解できないわ、むしろそんなことを
楽しめる女って幸せなのよ、
お化粧が終わるとボクはグロスで濡れたようになった唇をぷるっとさせて可愛い
自分を演出する練習をしていたわ、素敵な彼氏を落とすために・・・
あっ、いけない、もうボクじゃないわ、ワタシはもう。
帰りがけに小島さんはワタシにいったわ、
「次に来るときは女の子になってくるのよ、いいわね」
わたしの足取りは、行きのときよりもうんと軽くなっていたわ。