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てっしゅう
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「深淵」 最上の愛 第一章

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「調べついてるねん。正直に言いや。そうやないと臭い飯食わなあかんようになるで」
「話したら捕まえへんの?」
「そうや、全部言うたら、見逃したるで」

真奈美は腕を見せて、及川の質問に答えだした。

署内の食堂に絵美は朋子を誘って昼食をした。
「警視正、お誘いいただいて光栄です」
「警視正は止めて。早川でいいから」
「ここは署内ですよ。上司に聞かれたら叱られます。警視正と呼ばせてください」
「そう言う所が官僚の嫌なところね。まあ仕方ないけど。どう?森岡くんのこと考えた?」
「ずっと考えています。警部補は私のことをどう思っているのか不安なんです。警視正のことが忘れられるのでしょうか?」
「はっきりと言ったわね、フフフ・・・私が何故誰とも付き合わないって言ったか解る?」
「好きな人が居られるからでしょう?」
「正しくは違うの。誰にも話したらダメよ。森岡くんといい仲になっても言っちゃダメ!約束できる?」
「いい仲って何ですか?ひょっとして・・・」
「そうよ。もうなってるの?」
「なってません!そんな・・・はしたないことしません」
「むきにならなくていいのよ。はしたなくなんかないし・・・まだ経験ないってことね、朋子さんは」
「いけませんか?私は結婚する人でないとそういうことは出来ません」
「いいのよ、それで。でもね、はしたない事だなんて思っちゃいけない。あなたも可愛い女性だから、誘われて好きになったらそうなっていいのよ」
「ご経験からそうおっしゃるのですか?」
「だったらいいのにね・・・私も男は知らないの。本当の恋愛も知らないの」
「うそ!本当ですか。考えられません・・・」
「初めてあなたに話すの。今までいろんな人に聞かれたけど答えられなかった。いや、答えたくなかった。笑われるか、バカにされるか、それ以上に私に対する見方が変わってしまうことが怖かったの」
「そんなこと私に話されていいのですか?」
「最近ね、しんどくなってきたのよ。年なのかしら。あなたに聞いてもらえたらちょっとは楽になるかも知れないって、そう思ったの。約束して誰にも話さないって」
「約束します。警視正のお役に立てるだけで嬉しいですから」
「ありがとう、朋子さん」

絵美は携帯に一枚の写真を保存していた。それはペーパーから写し撮ったものだった。15歳の絵美と仲良く一緒に写っている男性が居た。その写真を朋子にそっと見せた。

「若いころのお写真ですね・・・お幾つのときですか?」
「中三の夏休みよ。若かったでしょう?」
「ええ、でも今を予想させるぐらいに綺麗ですね・・・やっぱり綺麗な人は子供の頃から綺麗なんだ。あ〜あ、なんだか嫌になっちゃいます」
「ええ?どうしたの」
「だって、ダイエットして磨いても、所詮は適わない訳でしょ?元から綺麗な人には・・・不公平だって思うんです」
「そういう考え方が自分をダメにするのよ。他の人より可愛いって思い込まなきゃ・・・朋子さんは本当に可愛いから、大丈夫よ。自信もっていいのよ。森岡くんも刑事としては立派になってゆく男性よ。とってもいい組み合わせじゃないの。私が仮に森岡くんと仲良くなったとして、その先に何があるって思う?」
「警視正に褒めて頂いて嬉しいです。その先にですか?結婚とかじゃないんですか?」
「結婚なんか出来るわけないでしょ!家事や育児が出来ないんだから・・・それに、この仕事辞められないし」
「そうですね、そうおっしゃられると、そうだと思えます」
「私のこと真剣に好きになって結婚をしたいって言う人なんか現れないのよ。じっくりと考えたら、止めようってなる訳だから」
「では、一生ご結婚なされないのですか?」
「仕事を取ったらね。今はそう思っているから無理だけど、この先40過ぎたらちょっと解らないかも知れないけど」
「赤ちゃん欲しいですものね・・・女だから」
「そうなの!それだけは叶えたいんだけど・・・頂戴!っていう訳にはいかないからね。考えなきゃならないわ」
「主夫やってくれる男性を見つけられたらいかがですか?」
「主夫?・・・そんなこと出来る人がいるのかしら」
「カッコいい人は多分いませんね」
「じゃあ、ダメだ!ハハハ・・・」
「そうですね、ハハハ・・・」

大きな笑い声に、傍にいた本部長が、
「なにやら楽しそうな話をしているね」
と冷やかしに来た。
「警視監!居られたのですか。お騒がせしてすみません」朋子はそう言って頭を下げた。
「いや、早川くんと親しくしているなんて君ぐらいだから、みんなにうらやましがられるぞきっと。なあ?」
「本部長!私はまだ就任直後なので一生懸命なんです。そんな言い方止めてください」
「すまん・・・まあ、頑張ってくれたまえ。私は期待しているんだから、頼むよ早川くん!」そう言って離れていった。

「余計な話ばっかりになったわね。携帯の写真に写っていた人ね、物心がついたときからずっと近所で仲良く遊んできた人だったの。私の父は警察官だったから家に居ることは少なかったけど、母親はね、もう一人子供が出来たみたいに面倒も見てたの。だからよく遊びに来ていた」
「同級生なんですか?」
「そうよ。向こうは一人っ子だから家に居ても寂しかったのかしら、私の母に懐いていた」
「好きだったんですね、その人のこと」
「好きと言うより、もう双子の兄弟のようだった。お風呂も一緒に入っていたし、何処へ行くのも一緒だった。周りからは冷やかされたけど、誰かが私をいじめるたびに怒ってくれたの。彼はね、小さいときから空手と剣道をやっていて、身長もあったから、誰にも負けなかったわ」
「ボディーガードだったんですね」
「そうね、そうかも知れない。その人の影響で私も中学から空手と合気道を習い始めたの。負けず嫌いの性格だったから、頑張ってこの写真に写っているときは黒帯だったのよ」
「すごい!それで地下街で投げ飛ばせたんですね。今はお付き合いされていないのですか?」
「うん、中学を卒業して彼は父親の転勤で神戸に引越ししたの。進学高校に通って、私とは時々電話したりお正月とかは逢ったりして、少しずつだけど兄弟という感覚から男の人って言う気持ちを持ち始めたの。今まで何気なく手を繋いで来たけど、ひげが伸びてたくましい身体つきになってきた彼と手を繋ぐことも恥かしいって思うようになったの」
「なんか素敵な恋バナを聞いている感じです」
「そう・・・大学受験に忙しくなっていた私はいつしか彼と逢うことより、模試や塾の時間を優先するようになっていたの」
「誰でもそうですよね。まして東大受験なんですもの」
「周りもそう言ってくれたよ。合格したら堂々と逢いに行って、恋人宣言すればいいって・・・」
「そうされたのですね。どうなったんですか?」
「彼と最後に逢ったのは95年のお正月よ。高校二年最後の年、何があったか解るわね?」
「はい。震災ですね」
「信じられなかった。家が長田区にあったから、とても心配したんだけど連絡のつけようがなくて。一月ほどして神戸に行ったら、彼の家は無くなっていた。両親も亡くなられていたの」
「彼も亡くなってしまわれたのですか?」

もう、絵美は目に涙があふれてきた。

朋子はもうこれ以上聞いてはいけないと話を中断した。