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呼び寄せるもの 【腐った隣人】

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「あたしずっと誰かが助けてくれるってそう信じてたあの部屋の壁に向かってそう念じ続けていたのお母さんの怒声とか弟の泣き声がうるさかったけどそんなこと気にしないあたしにはあたしの世界があってあたしはその世界のお姫様なの信じていれば王子様は助けにきてくれるし誰もがあたしにひざまずくの今日助けてくれたのがお姉さんだったのは意外だったけどたまにはこうゆうのもいいよねお姉さんがこの部屋に引っ越してきた日のこと覚えてるよ重い足音が三つと軽い足音が一つすぐに男の人三人と女の人一人だってわかったわドタドタと足音がうるさかったけど荷物がすくなかったのねすぐに荷物を運び終わって引越し屋さんは帰っていったねそれからはお姉さんのお母さんとお父さんがやってきて食器や洋服とか小物をダンボールから出して整理してそれからそれからお蕎麦屋さんを呼んで引越し祝いをしていたねでもお父さんが物足りなくって最終的にはふふふお寿司も頼んで楽しかったなあの日はうちの中はいつも通りだったけどお姉さんが引っ越してくる前はね冬くらいまでおじさんが住んでいたのよよくわからない音楽を夜中まで流すから壁がどんどん鳴ってうるさかった弟が泣くと壁をどんって流すから弟は怯えていたわその前に住んでいたのは夫婦と女の子で子供がもう一人できたら部屋が狭くなったからって引っ越していったの旦那さんは優しかったけれど奥さんはヒステリックで怒ると娘のおしりを抓るからあたし嫌いだった」

 千尋の服を着た少女は千尋が話を振っていないのに勝手に喋り続けた。
 あんな家庭で育ち、家に引きこもっているから、他人とのコミュニケーションを知らないのだろう。
 声も小さく、早口で、ぼそぼそと喋り、聞き取りづらい。
 千尋は少女の話を聞き流し、適当に相槌を打ちながら、洗濯物をたたむ。
 服を仕舞ったら、夕食を二人分作らなくてはならない。
 風呂にも入れてやらなければならないだろうか。
 家にはいつ帰してやればいい?
 隣の女がこの子を引き取らなかったらどうしよう。
 感情に動かされて家に招いてしまったけれど、冷静になると厄介極まりない状態だ。
 
 どうしようか。考える。

 睡眠不足ぎみだからか瞼が重い。
 瞼をかっと見開こうとするがさらに瞼が重みを増して千尋の視界を塞ぐ。
 千尋が夢の世界に落ちる間もBGMのように少女の声は流れ続けた。