NIGHT PHANTASM
17.レストインピース(4/5)
「……どうなった?」
「倒れてる。死んだ……? わからない」
草むらに隠れ、様子をうかがう人影があった。数は四。その若者達はまだ青さが抜けきらない、ごくごく普通の男女だった。
普通と違う面があるとすれば、それは――吸血鬼ハンターの家系に生まれたことだ。そして、それによって親や家族を殺された。たった、その二つ。
銃を構えたまま、一人の少年がルイーゼとアンナであったものに近づく。少年の胸ポケットには、大切な父の写真が入っている。
遺影というべきか、そう、数年前――もう十数年といってもいいだろうか。父をこの番犬に殺されてから、少年は復讐を生きる目的にかかげて生きてきた。
残りの若者達も、同様の境遇をもって今日という時を待ってきた。乗り込む矢先に、番犬の方から姿を現してくれるとは思わなかったが――。
「雨だ……」
「え?」
「雨が降ってる。空はこんなに晴れてるっていうのに、気味が悪い……」
吐き捨てるように言って、番犬の亡骸を探る。脈もない、心臓の鼓動もない、瞳孔は開いている。憎いとばかりに思って今日までの毎日を生きてきたが、少年は驚かずにいられなかった。
これが番犬?
これが、亡霊と呼ばれた殺し屋?
「……」
安らかに眠る少女。
ただの人間と、変わらない。街を歩いていてもおかしくない、あどけない顔立ちの双子だった。こんな怪物が、父を殺したなどと誰が信じられようか。
「人違いじゃ、ないよな……」
「バカ言うなよ」
「俺達、これで……終わったんだよな? 親父達も、やっとこれで報われるんだよな?」
すがるように、少年はそばにいた若者に言った。
雨に濡れて、その表情は泣いているようにも見える。あたたかい雨は、止むこともなくただただ降り続いていた。
対する若者は、しばらくのためらいを見せた後、静かに頷く。
「終わったよ、全部」
――無数の銃声。
あれは、ルイーゼとアンナのものではない。もっと多くの誰かが、何かを狙って……そこまで考えて、ティエは全てを察した。
「ジルベール……私は、こんな終わりを望んでいたわけじゃない……」
涙が溢れる。
立ち上がる力もなく、伏したまま、嗚咽をこらえて泣いた。悔しく、悲しく、後悔はとても重く。
「ルイーゼ……アンナ……違うの、私は……私は、あなたたちを娘だと思って、今日まで……違うのに……」
その後は、言葉にならなかった。大粒の涙が服や髪、床を濡らす。やさしい雨が、重く暗い色をしたカーテンの向こうにあるガラスを叩いていた。
ともに、泣いてくれるかのように。
静寂を取り戻した森、そして屋敷。人間のようにそのまま死ねたなら、どれだけ神に感謝したことか。
ティエは生き続けなければならない。このまま外に出て灰になることすら許されず、刺さったナイフが作る傷よりも痛い心を抱えたまま、長すぎる時間を生きる――吸血鬼の、定めだった。
「何を、間違ったの……どうして、私だけが生きていられるの……どうして……」
答えは、なかった。
作品名:NIGHT PHANTASM 作家名:桜沢 小鈴