「お話(仮)」
左右の道を交互に眺めた後、クリスは肩の力を抜き、シヴァの両手を握って笑顔で言った。
「決めた。シヴァちゃんの信じる道に懸けるわ」
「……」
悠長に考えている暇はない。小さく溜息をつくと、彼女は黙って左の道を指差した。
○
崩れ落ちた瓦礫によって塞がれた館の玄関扉。
「……ホント、ギリギリだったわねぇ」
孤児院の芝生に横たわったまま、荒い呼吸でクリスが笑う。
「みんな無事かしら?」
視線だけを動かして仲間の姿を確認する。そばには、無言で館を眺めるシヴァと、同じくマリア。そして――。
「アリガト。おかげで助かったわ」
少し離れた場所に佇むグレーシャに微笑みかけて、クリスは心から感謝の言葉を述べた。
「クリスはお人好しだね。本気であたいを信じるなんてさ」
「ふふ。アタシはシヴァちゃんを信じただけ」
数分前、傾く塔の中で判断を委ねられたシヴァは、そっと左の道を指し示し、そして言った。
(この状況で丸投げか……ふざけるな。地獄へ堕ちろ)
その後、彼女は迷わず右の道へと進み、クリスもそれに続いたのだった。
「バカだよ、バカ。あんたら二人共」
呆れ顔で腕を組みかえるグレーシャ。その指先が、懐にしまってあった巻物に触れる。
そのままおもむろに夜空を見上げ、彼女はひとつ長い息を吐いた。
「……けど、一番のバカはあたいだね」
灰色の雲の向こうに、ぼんやりした月が見えていた。
人影の絶えた館の小部屋。
壁の隙間から差し込む月明かりの下、瓦礫だらけの床に微かな靴音が響き渡る。
テーブルの上には、未だ光を失わない水晶玉と、星型に並んだままのタロットカード。
“太陽”、“月”、“女帝”、そして“隠者”……。
残る一枚のカードが、ひとりでにふわりとめくれた。
低い笑いが、無人の室内にこだまする………。
〜To be continued〜