「お話(仮)」
第3話
――荒れ狂う海。
波はうねりしぶきを上げ、叩きつける嵐の音が暗黒の空にこだまする。
そんな中を、今にも呑まれそうになりながら進む船が一隻。
「姫! 祖国の為、急いでお逃げ下さい!!」
直後、船室の扉が勢いよく開かれ、甲冑を纏った一人の兵士が叫んだ。
「申し上げます! 敵はもう、すぐそこまで……!」
「ぐぅ……、もはやこれまでか。否っ、姫だけは……姫だけは我々の命に代えてもお守りするのが、亡き陛下への最後の忠誠! 良いな!!」
すると、別の兵士が前に進み出て言った。
「隊長。ひとつ私に考えがあります」
次の瞬間、耳の割れるような轟音が周囲に響き渡り、船内全ての明かりが消えた。
「神よ、どうか……姫の命を守り給え!!」
○
「んーー〜っ、青い空! 白い雲! それに何より、美味しい海の幸!」
大皿に盛られた名物の揚げ魚を前に、クリスが舌鼓を鳴らす。
ゴルゴンゾーラの一件から数日。クリス達二人は森向こうの港町に来ていた。
「ちょっと。シヴァちゃん、さっきから全然食べてないでしょ。もしかして、お魚は嫌い?」
大衆食堂のテーブルを挟んで向かい合ったまま、クリスが問う。
「これ以上痩せちゃったら大変よ。このあいだ持ち上げた時、あんまり軽いから驚いちゃったわ」
「うるさい。クリス、お前には関係ない」
顔を背け無愛想に返すシヴァ。しかし、クリスの勢いは止まらない。
「それとも右手が使えないなら、代わりにアタシが食べさせてあげるわよ」
「やめ……っ!」
身を乗り出したクリスの顔がシヴァに迫る。
と、次の瞬間、鋭い何かが風を斬ってクリスの額をかすめた。
はらりとテーブルに落ちるキャメル色の髪。
「腕ならば、もう治った」
その右手にナイフを握りしめてシヴァが呟く。
「そんなことより、浮かれている暇はない。ここへ来た目的を忘れたか?」
「もちろん覚えてるわよぉ」
少しだけ短くなった前髪を気にしながら、クリスは窓の外に広がる真っ青な海を横目に言った。
「『蒼炎の書』探し、よね?」