「お話(仮)」
「シヴァちゃん。もう動いて大丈夫なの?」
「あぁ」
平然とシヴァは頷くが、腕ごと包帯で固定された右肩が痛々しい。
その後、一呼吸置いて彼女は言った。
「今回のことで、お前もケモノの恐ろしさが身に染みただろう?」
昨夜の出来事を思い起こすかの如く、どこか遠くを見詰めたままシヴァは続ける。
「これが最後の忠告だ。もう、私には関わるな」
「……」
「逃げ切れないことはよく分かった。私の近くにいれば、間違いなくお前にも危害が及ぶ」
「シヴァちゃん、アナタは一体……?」
聞き覚えのある質問だった。長い沈黙の末、観念した様子でシヴァが口を開く。
「私は……ずっと、囚われの身だった。訳あって、長い間、奴等の手の中に」
言葉を選びながら、その意味を噛みしめて喋るシヴァ。
「だが、ある時、隙を見つけて……逃げた。そして、今も…………」
「そう」
クリスはそれ以上何も聞かず、代わりにそっと伸ばした手でシヴァの頬を撫でた。
「なら尚更、放ってなんかおけないわ。大丈夫、シヴァちゃんのことはアタシが守ってあげるから」
「……何故」
呆れ顔でシヴァが問う。
「何故、そこまで私に構うのだ?」
「何故って、好きだからよ」
そう即答され、調子を狂わされたシヴァはひとつ溜息をつく。
「クリス。お前は理解不能だ」
彼女がその名を呼ぶのは二度目だった。
すぐに目を背けるシヴァを横目に、クリスは微笑み、そして言った。
「コート、着てない方が可愛いわよ」
シヴァは黙っていた。そんな中、吹き抜けた春風が前髪を揺らし、その下から桃色の頬が覗く。
「?」
同時にクリスの手から離れ、勢いよく宙に舞い上がる新聞紙。
散らばったページの片隅に、とある小さな記事があった。
『カリブディス軍、エンデュミオンに勝利宣言! 二十年間に及ぶ戦争終結へ』
〜To be continued〜