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「お話(仮)」

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第2話


(頼む。コイツを……町の、酒場の……ルビア、に…………)

「シヴァちゃん?」
「?」
 クリスに顔を覗き込まれ、シヴァは我に返った。
「大丈夫? そのコート暑いんじゃないの?」
「お前には関係ない」
 春の陽気に不似合いな厚手のコートを纏ったまま、無愛想にシヴァが返す。
 あの森での戦いから一夜明け、二人は元の町に戻ってきていた。
 町の中心部にある賑やかな噴水広場。そこでは小鳥達が戯れ、規則正しい水の流れが時を刻む。
「そういえば、昨日ここで一緒に鬼ごっこしたわよねぇ」
 横目で路地裏を眺めてクリスが笑う。手入れの行き届いた広場から少し外れた薄暗い小道には、相変わらず周囲の店の出したゴミ袋が雑然と積まれていた。
「あの隙間に隠れてたなんて、全然気付かなかったわ。アタシ、本当に化け猫が出たと思ったもの」
 その後、一呼吸置いてクリスが問う。
「ねぇ、どうして隠れたりしたの?」
 ふいにシヴァの歩みが止まる。そして、短い沈黙の後、彼女はぽつりと一言呟いた。
「奴等の追手だと思った」
「奴等って、“紅い獣”ね。シヴァちゃん、アナタは一体……」
 言わんとすることは理解出来た。しかし、それ以上彼女は何も語ろうとしなかった。
「ま、いいわ。それより今はルビア探しね。サクッと見つけて次いくわよ」
「心当たりでもあるのか?」
 すると、シヴァの問いにクリスはわざと目を背け、いじわるそうに歩調を速めて言う。
「ふふ、半月も同じ所にいると色々あるの」
 そんなクリスの後を追って、シヴァが噴水前を横切ろうとした――その時。
「!?」
 シヴァの視界の隅に、一瞬、路地の壁にもたれてこちらを眺めている黒髪の男が映った。その男は彼女と目が合うと、静かに微笑み、ゆっくり手招きをしながら風のように去っていった。
同時に噴水の水が勢いよく躍り、小鳥達が一斉に大空へ舞う。
「どうかしたの?」
 怯えるようなシヴァの表情に気付いてクリスが問う。
「……いや」
 俯き加減にシヴァは答えた。照りつける日差しの下、その頬をひとすじの汗が伝う。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹