おはようの事情
「ゴホン」そこで大矢がわざとらしく咳払いをする。
「じゃあ“大矢友の会”結成という事で、もう一度乾杯をしよう」
大矢は元気にグラスを掲げたが、誰も釣られはしなかった。
「まあいいや。とりあえず月に一回は会合を開くので各自、面白いネタを仕込んでおくこと。いいか“おはよう”お前に言ってるんだぞ」
僕は、なんだよそれ、と抗議したが誰もとりあってくれなかった。
「でも、楢崎さんは良いの」
「はい、大丈夫です。皆さん可笑しい人ばっかりだし。じゃあ、私の職場の別の人も入れて貰って良いですか。海外からの研修生なので帰国するまでですけど。日本人ともっと知り合いになりたいって、いつも言ってる人がいるんです」
どこがどう良かったのか解らないけど、楢崎さんはすっかり機嫌を直した様だ。
だけど、と大矢がもったいつけて言う。
「良いけどご存知の通り、うちは入会の基準が厳しいからね――。で、なんていう人なの、その研修生は」
楢崎さんは、何故かニッコリ笑って自信ありげに言った。
「はい、ジャネットさんです」
じゃあね! か。
それもやっぱり別れの挨拶だな、と僕は思った。でも今日の別れがあるから、又明日に会える楽しみができるんだ。
それを楢崎さんに言うべきか、僕は真剣に考えていた――。
おわり