「山」 にまつわる小品集 その参
公園の花壇の石組に腰をかけて、草叢の虫に目をやっていた。
カマキリである。
オスであろう。前脚をあげてメスにとっかかろうとしているようだ。何度か前脚をあげて・・・
ついにメスにつかまり(?)頭をかじられて、それからオスは自分の卵鞘をメスに差し入れた。
メスはオスを食べ尽くそうとしている。
前に本で読んだことがある。
カマキリは触れるものにすばやく襲いかかるが、オスは決してメスを食べないとあった。
メスは、DNAを残さなければならないからである。
究極の愛とはそのようなものかもしれない。
愛欲に理由を付けたがるのは、人間だけだ。
私とて、愛と・・・欲望を感じて結婚したのだ。
「ただいま」
「あっ、お帰り、散歩してきたん? すぐに食事の支度するわ」
いつもと変わらぬ・・歳老いてはいるが・・妻の姿。
やはりここが、私の居場所。
山の神に仕える私が、いる。
注:『山の神』とは妻帯者が自分の妻のことを謙遜していう言い方
2011.9.5
作品名:「山」 にまつわる小品集 その参 作家名:健忘真実