写真 part3
幸子がなにやら 「ママは冷たいわよ! 汚い女よ!」とかなんとか、激しい口調で大声で叫んでいるのだ。
どういうものだろうか。 驚いた私は半分だけ開けた玄関のドアを、そっと又閉めてしまったのだ。
本音であんなふうに喧嘩が出来るというのも、やっぱり実の親子だからだろうか・・と、そんな思いになり、中に入って行く気持ちがそがれたというのか、 ともかくその夜は、そのまま近所の飲み屋へと向かってしまった。
おれは亭主失格なのかな・・ なんとなく悲しくなったのが正直なところだった。
その夜は痛飲した。 帰宅は家族も寝静まったころになった。
そんなことがあった頃から、妻の美幸は急に 幸子の縁談のことをしばしば口にするようになった。
「もう そろそろいいわよ。 来年はあの子も25よ? それにどうやらいい人もいるみたいだし。。
パパは何か聞いてないの? あの子、なんでもあなたには相談するんでしょう?」
そう言われて気づいたのは、幸子の口からほとんど男友達の話を聞かされたことがなかったということだった。 「肝心なこと」はやはり父親には聞かせてはくれないものなのだと、改めて思った。
大学を出て2年。 中堅どころの商社に就職。 「あんな子なのだ」から、さぞかし言い寄る男子社員だっていてもおかしくないなあ・・ そんな親バカというか身びいきというか、 呑気に考えていた私だったが、 「そうかぁ・・ 幸子も、もうそんな年齢なんだなぁ・・」とぼんやり考えていた。
「西村 聡クン」とはその後はトントン拍子で、もう来年3月には挙式という時期になっていた。
美幸はそれは楽しそうに、結婚準備を進めていった。 まだそれでも間があるのだが、列席者の選択から、衣装から、祝辞のお願いや、ハネムーンのこと。 することは山ほどあった。 そして相変わらず、いや以前にも増して美幸の帰宅は遅くなっていた。
そんなある朝。
幸子はいつもの起床時間を過ぎても、なかなか降りてこなかった。
「もう・・ しょうがないわねぇ・・ さちこーー! さっちゃん!?」と言いながら妻は二階へ上がっていった。
今でもよく憶えている。
10月11日 火曜日 朝 7時半を回っていた。
「あなた!! あなたーー!!! 来てーー! 」
美幸の悲痛な声がした。