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勧善犯罪

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 キョウコを一言で表すならば、才女という言葉が最も適切だろう。知識、教養、洗練された趣味。男たちはこぞってキョウコに愛を囁き、女たちは嫉妬と羨みを持って彼女に接するのが常だった。
 とはいえ、キョウコ自身が男に傅かれ、女を見下して日々を過ごしていたわけではない。どちらかと言えば彼女は控えめな性格であり、人と争うのを好まない。しかし、人一倍正義感の強い女性であった。
 彼女の性格を決定づけたのは、幼い頃からの両親の教育だった。常日頃より、「人に迷惑をかけてはならない」「悪に屈してはいけない」と繰り返し教えられ、彼女は持ち前の素直さでそれを吸収していった。教えそのものは一般論に過ぎなかったが、キョウコの中ではとても重要なことと捉えられていた。事実、彼女の小学生時代の夢は、『警察官』や『検事』といった、女の子らしからぬ勇ましい内容で彩られていた。
 彼女が明確に将来の目標を持ったのは、中学生のことである。ある日のニュースで彼女は、とある政治家の汚職疑惑に接した。巨額の富を私欲のためにかき集める行為。ましてその元をたどれば、その富は税金なのだ。国民が国のために収めたものを、個人が横から攫っていくなど、許される事ではない。この時キョウコは政治というものに興味を持ち、明確な目標として政治家を目指す道を描いた。
 
 「私は政治家になりたいの」
 「えぇ?つまらなそう。結婚とか大変そうじゃない?」

 女の子が語る夢としては珍しい部類だろう。周囲の友人からは理解されなかったが、彼女は特に気にもとめなかった。彼女は夢の一歩として、生徒会に立候補し、見事に生徒会長に選ばれた。ごく小さいコミュニティとは言え、政治の基礎は学べる。そう考えてのことだった。
 中高一貫の私学に通っていた彼女は、ひたすら勉学に励んだ。実直な性格と、怠らない努力。学力はめきめきと向上し、生徒会内部でも人望は厚い。高校では先輩に僅差で生徒会長の席は譲ったものの、ここでキョウコは新しい発見をすることとなる。副生徒会長となり、会長の補佐をおこなう内に、実はトップに立つものより、その側で補佐を行うものの方が重要性が高いということである。
 古来より、人気があるが無知な王に、優秀な大臣が居る国がもっとも栄えたものだ。自分が最高指導者になるよりも、諫め、意見を言う立場になったほうがいい場合もある。事実、彼女は会長となった先輩が卒業した後も、後釜に立候補することはなかった。大学の受験が控えていたこともあったが、補佐役の重要性を認識した今、生徒会での活動はあまり意味がなかった。
 その後も、彼女の努力は終わりを知らぬが如くに続いた。大学に進学後、政治と経済の分野を専攻し、精力的に活動した。各地の演説会に参加し、ゼミでは積極的に討論を交わす。時には教授に反駁し、大論陣を展開することもあった。彼女の書いた論文は学生ながらに注目され、業界誌に掲載される程だった。
 彼女に、何度となく人は尋ねたものである。

「そんなに勉強ばかりで、疲れませんか。偶には、遊びに行ったりしてもいいのでは……」
「いいえ、私には目標があります。それを実現するまで、手を抜くわけにはいきません」

 質問者は大抵、感心して尋ねる。それはどんな目標ですか、と。彼女はそんな時、一言こう答えるのが常だった。

「世界から悪を消したいのです」
作品名:勧善犯罪 作家名:酒虎