見えない
森主がいなくなってから、一年ちょっとの歳月がたっていた。
梓はあれ以来、ときどき森に来ては森主の住んでいた木に話しかけている。たまにサトキとも会い、話を交わすことも多かった。彼女はもともと動物好きらしく、イタチの姿になったサトキをまるでペットのように可愛がっている。サトキと馨の勧めもあって、ベリーショートだった髪の毛も伸ばし、今日のようにスカートも履くようになった。ピリピリと張っていた気も緩み、そういう意味でも女性らしくなったと言える。
サトキはというと、カマイタチとしてのんきに過ごしていた。森は平和になったし、ほかの妖怪とも話すことができるようになって、それなりに充実した生活を送っている。たまに梓が来てくれるのがうれしくて、本当に忠犬のようになりつつあった。先日初めてツキワとマモルの墓を造り、馨から教わったように花を添えてみたところだ。
馨はすぐに祓い屋として働き始めた。もともと才能だけはあったようで、今ではもう一人で仕事に行かされるようにまでなっている。そのためめったに森には来れないのだが、来たときなどはサトキと一人と一匹で話しこむこともあった。
何より変わったのは、梓と馨が恋仲になったというところだった。サトキは猛反対したのだが、サトキが心配するような状態ではなく、実際は友達付き合いの延長というにふさわしい状態である。サトキに言わせれば、馨は頼れるが結婚を考えられるような相手ではないらしい。まるで自分が梓の父親になったかのようだ。
森主の住んでいた木に向かいながら、サトキはまじまじと梓を見た。
「にしても、頑張ったなぁ」
「だろ?」
梓がここまで女性らしくなったのは、一重に馨の努力だった。女性らしい服をプレゼントしたり、口コミのいい美容院を紹介したり、言葉遣いの訂正をしたのも全部そうだ。サトキもそれに関しては、素直に認めていた。
「お前ら・・・」とこわい顔をした梓の額を、
「『お前』じゃないだろ」と馨が手の甲でたたいた。痛くはないが後ろにつんのめり、木の根で危うく転びそうなる。