見えない
君
しばらくサトキとにらみ合っていた森主は、再度確信した。「彼女」の亡骸についていたあれは、サトキのものだと。
一方のサトキは、思わぬところに触れられ、梓をちらりと見た。梓は状況を処理しきれないようで、凛々しく立っていたのが過去となっている。
長い沈黙が流れる。それを破ったのは、その三人のだれでもなく、吐き気を留めた馨だった。
「どういうことだ・・・?」
その質問は当然サトキにされたものだ。しかし、サトキはどう説明したらいいのかもわからなくて、結局無視する形になってしまった。彼の姿を見ることができない馨は、枯れ葉の動きがないことから、サトキがまだ隣にいると判断する。手を伸ばして宙を掴むと、布を掴んだような感触が伝わってきた。
「お前、人を殺めるような妖怪なのか?」
「違うッ!あれは事故だ!」
「事故・・・?」
その言葉に反応したのは森主だった。憎しみを表現するようにあふれ出ていた邪気が、ふっと急に止んだ。邪気に敏感に反応していた馨はすこし体調が楽になる。馨に肩を掴まれたまま、サトキは言い訳のように記憶をたどる。
「俺が初めてあの人に能力を見せた日だ。でもそれまで俺は人を持ちあげたことなんてなくて・・・」
「過信していた」とサトキは頭(こうべ)を垂れた。
「少し見せたら、あの人はすごいと笑ってくれた。それがうれしくて、もっと喜んでほしくて、あの人を風で持ち上げた。でも、それが過信だった」
サトキは梓を見ることができず、目の前にある険しい馨の顔を見ていた。
「俺の風には、生き物を持ち上げるほどの丁寧さも、人間一人を持ち上げる力もなかった」
今でも鮮明に覚えている。
風で喜んだあの人の顔。
崖下に落ちていくあの人の姿。
間に合わずに涙するマモルに「大丈夫だよ」と笑ってくれたあの笑顔。
それらがサトキの心を締め付ける。
「事故?過信・・・?」
ふらふらと森主が二人に近づいてくる。徐々におさまっていた邪気があふれ出してきて、馨に頭痛が襲いかかった。
「そんなものが、彼女を殺したと言うのか・・・?そんなものが・・・」
馨の頭痛がひどくなり、その場で頭を押さえてうずくまった。彼から解放されたサトキは、キッと森主をにらんで臨戦態勢になる。しかし、事態は思わぬほうへ進んだ。