見えない
「ありがとう、たすかったわ」
きっと心の底からの、素直な感謝だったのだろう。しかし、状況もわからなければ、意味も解らず笑われた森主は、不快感にあふれていた。が、同時に懐かしさも流れ出す。彼女の持つ雰囲気、それはまさにあの「彼女」が持っていたものと酷似していた。
孤独だった森主が、唯一愛し、しかし助けられなかった人。そんな「彼女」と同じ雰囲気を、女性は持っていたのだ。だからこそ、森主はすぐに気付けた。
彼女は、「彼女」の生まれ変わりだと。
そうなると、語らぬことを責めることもできず、ありがとうと感謝されるのは歯がゆかった。
「べつに。困っている人を助けるのは当然だろう」
昔「彼女」が言っていた言葉をくり返す。思わず、人間のフリをしてしまった。しかし、その対応はなにやらおかしいものだったようで、彼女はケラケラと再び笑い出した。
「いつの時代よっ!可笑しい人ね」
人の時代は思ったよりめまぐるしく変わっているらしい。自分の持つ情報が古いと解ると、森主は余計なことは言わないことに決めた。
それが、二人の再会だった。