見えない
森主とあの人
この森には森主という存在がいた。彼はただの妖怪ではなく、精霊との間の存在だったため、人間には愚か、妖怪にすら見えることも少なかった。
そんな中、一人の少女が現れた。小さな小さなその少女は、きょろきょろと見回すと、木の下に座り込んだ。その樹は森主がいつもいる「樹」だった。当時は木に精霊がついていることも特異ではなかったが、精霊のいる「樹」というのはいない木よりも大きく育つ傾向にあり、人々の遊び場になることも少なくなかった。
が、森主のいる「樹」は、他の「樹」よりもずっと大きくて、神木のような太さを誇っていた。そのためか、あまり子供たちが遊びに来ることもない。
珍しいなと樹の上から見下ろしていると、少女がふと上を向いた。ばっちりと目が会うが、どうせ見えていないだろうとそのまま見つめ続ける。が、ふと違和感を抱いた。少女も視線をそらさなかったのだ。
少女はにかっと笑った。
「もしかして、せいれいさん?」
言われた森主は目を丸くして驚いた。精霊というのは宮司や巫女など神に使える資格を得たもののみが視認できる存在である。精霊かと聞きながら、彼女の目にはつまり、妖怪として移っているわけだ。皮肉な情報への笑いを堪えながら、森主は嘲笑を向ける。
「残念だが、俺は妖怪だ」
「うっそだぁ!だってこんなにきれいなきにすんでるんだよ?」
人とはなんと愚かなことか。綺麗な樹だから「綺麗な」精霊が住んでいて、「汚い」妖怪がいないというのだ。嘲りに気付かないことも非常に哀れだ。おかしくておかしくて、森主は腹を抱えて笑ってしまった。
ケタケタと笑う森主を見て、なぜか少女も楽しそうだった。ふと、彼女に興味がわいた。笑いの冷めた森主は、彼女を再び見下ろした。