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「馨、今どういう状況?」
 馨は森主に目を向けたまま、状況を説明する。が、森主の変化が唐突過ぎたところはどうにも説明できなかった。
 すると、サトキが気軽に尋ねてくる。
「暴走される前に梓は何かした?」
「いや、俺にあいつの動きを教えたくらいだ」
 どう思い直しても、それしか出てこない。しかし、それだけでサトキは何かわかったようだった。ぽりぽりと頭を掻く。そして断言した。
「馨が攻撃したことは原因じゃない。原因は梓だ」
 二人の会話に梓も耳を澄ます。
 今まで固まっていた森主が、ゆらりと動いた。その視線は、サトキに向かう。途端に彼が高らかに笑い出した。
「久しいなぁ!あのときのちび助か」
 面識があることは知っていたが、ちび助といわれるほど小さいころの話だったとは、二人とも予想もしていなかった。森主は迷わずサトキのほうへ歩いてくる。サトキに動く気配はなかった。そのため、すぐに森主はサトキの前に立つ。隣にいた馨が、思わず身を硬くした。梓も同様に太めの木の枝を構える。
 鏡のような構図で向かい合う二人の表情は、まったくの正反対だった。いつも笑っているサトキが無表情で、今まで無表情で戦ってきた森主が笑っている。何の会話をするでもなく、森主は向きを変えて梓を見た。
「よくのうのうといるものだな、彼女の前に」
 笑っているのに、怒っているのが解る。森主からどっとあふれ出た邪気に、馨は吐き気を覚えた。
 梓とサトキと森主で、直角三角形を生み出す位置で森主が止まる。そこでくるりと振り返った。
作品名:見えない 作家名:神田 諷