見えない
生まれ変わり
梓が森主を探し始めたのは、母親がなくなった中学生のときだ。母親は病気がちだった。梓の祖父母が手を尽くしてくれたが、その病気が治ることはなかった。父はすでに他界していて、梓には母しかいなかった。だから彼女も、世界中を探し回って母を助けてくれる可能性のある医者を探し回った。
それでも、母は俗に末期と呼ばれる状態になった。母は亡くなる直前に、ふとこぼした。それが「森主」の話である。妖怪なんて信じていなかったのだが、それを聞いて始めてその存在を信じた。
何年も何年も探して歩いて、でも梓には妖怪なんて見えなかった。さすがにまるきりではないが、声も姿もぼんやりだったりする。そんな中、はっきりと見えたサトキの姿はとても嬉しかったのだ。
だから、サトキがいないのは精神的にきつい。サトキの兄弟の力のせいだと思いたくなかったから、あの話もきつかった。
そんなことを考えていると、いつもの場所に導かれる。そしてそこには先客がいた。顔を見て、げんなりとする。
「よう、待ってたぞ」
馨だった。梓は挨拶も返さずに、隣を素通りする。馨は梓の後ろをついて歩く。もう、梓は「ついてくるな」とは言わなくなった。「手伝ってくれ」とも言わないけれども。
今日も梓は同じ木の周りをぐるぐると回った。最近いつもこうだった。
そこでふと気付く。
「なぁ、この木。もしかして、サトキの話にあったやつじゃないか?」
馨の言葉に、今まで一言も発さずに存在を無視していた梓がとうとう足を止めた。木を眺めてから、馨のほうを向いた。平均的な茶色の瞳が、異質な雰囲気をまとう姿をとらえる。
「木の精霊だとでも言うのか?」
「そこは解らないが、森主という名前から考えると、そう無関係ではなさそうじゃないか?」
馨は歩を進めて大木に手を伸ばした。梓も続いて手を伸ばす。
すると、梓のペンダントが大木に向かって強く反応した。その力はもう梓がひっぱられるほどだ。
途端、梓の顔が明るくなった。
「ここだ・・・っ!ここにいる!」
梓はペンダントのフタをあけた。そこから妖気が舞い上がる。あまりの邪気に、馨は吐き気まで覚えた。木が輝きだし、紫色の光が二人を照らす。そして木の中から、一人の男が現れた。その姿に、梓は目を丸くする。
そう、その姿は。