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見えない

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「見えねぇんだよ、妖怪の姿が。祓い屋見習いのくせに、な」
 その言葉に、梓とサトキは目を合わせた。代表してサトキが問う。
「でも、俺の声は聞こえてんだよな?」
 第一章内でも説明したが、通常妖怪に関して「見える」と「聞こえる」という能力は同じはずだ。しかし、今目の前にいる男は、「見えない」が「聞こえる」という。それがいかに不思議なことで、いかにありえないことか、その力がある人ならすぐわかるだろう。幽霊でしか、そんなことはありえない。
 呆然と立ち尽くす二人を交互に見ながら、馨は嘆息した。
「いいからとりあえず、開放してくんね?」という馨の頼みに、
「それはダメだ。君がペンダントを諦めたわけじゃない」と梓は即答した。
 馨はケッと喉を鳴らす。なんだかもうただの不良のようだ。しかしその態度が梓の癇に障る。顔をしかめ、互いににらみ合った。が、その空気をぶち壊すように、サトキが割って入った。
「なぁなぁ、何で俺の声が聞こえんだ?」
 目を輝かせるサトキの顔が、梓には心底ウザく、顔の見えない馨もはしゃいでいる声にあきれていた。押さえつけられている馨の耳を、サトキが覗き込んだ。梓と同じく、何か文字の書かれた補聴器を見つける。
「何だこれ?」
 そういってサトキが触れた瞬間、静電気のような小さな電気が走った。それを食らったサトキは、「痛い」「熱い」「電気が」という三つを大声でくり返してのた打ち回る。あまりのうるささに、梓にわき腹を踏んづけられた。
 そんなサトキとは裏腹に、発電側の馨が痛みを覚えている様子はない。まったく痛みはないらしい。それどころか空気を踏んでいるように見える姿の梓を見て、その足元にいるサトキの存在を知った。サトキが集中できなくなったため、馨は解放される。
 サトキに危害を加えたということに興味を覚え、彼をまたいで馨の耳を覗き込んだ。特に発電するような「何か」は仕込まれていない。書かれているのは文字だけだ。そこでふと彼女は思いつく。
「もしかして・・・、これはお経でも書いてあるのか?」
「お経が妖怪に効くか!効くのは幽霊だ!」
 上体を起こしたサトキが、涙目で訂正を入れる。が、その訂正は不要だったようである。
「お経に近いものではある。言ってみれば、対妖怪用の経だろう」
「対妖怪用?そんなものあるのか?」
「で、それがどうつながるんだ?」
 頭の回転が遅く、せっかちな二人に、見かけどおり短気な馨が声を張り上げた。
「これがあるから声が聞こえるんだよ!」と馨は渋々説明してくれた。それからペンダントを狙う理由を勢いで暴露してしまう。
「俺の師匠が!探してるんだよ、その妖怪を!」
 強い妖怪を探し出すには、その破片が要る。彼女の持つペンダントが、その妖怪の唯一の手がかり。そこから洩れ出る妖気が、あまりにも酷似していたのだ。だから、彼はペンダントを狙っていたらしい。勢いに負けて全てを暴露してしまった馨は、真っ赤になって口をパクパクさせる。
 やけくそになった馨は、悔しそうな顔でつぶやいた。
作品名:見えない 作家名:神田 諷