見えない
「馨(カオル)、祓い屋だ。見習いだけどな」
おおよそ祓い屋には見えない姿。しかも見習いというところでごまかしているところが怪しい。よって、梓はそれをウソと判断した。
ペンダントを一向に渡す気を見せない梓に、馨はむっとした。
「ほら、はやくアレをよこせ」
突き出された馨の手を、梓はためらいなく叩き落とした。結構な勢いだったので、馨の手が赤く染まる。その手をもう一方の手でかばうように持つと、彼は梓をにらみつけた。その目は涙目で、どれだけ痛かったかが解る。
冷静な目つきで彼を見ながら、飄々と梓は発した。
「嘘つきに渡すものなんて何もない」
「ウソ・・・っ!失礼な奴だな!」
確かに前の話が事実であれば、失礼以外の何者でもない。信じてもらえなかったことや、騙されたわけではないのに騙された感が馨を取り巻く。
彼はもやもやを吹き飛ばすように駆け出すと、足を大きく回す。梓がそれを避けたと思ったとき、馨は体勢を低くして、足の横に滑り込む。ハッと気付いたときにはもう遅く、梓は馨に足を持ち上げられて、盛大に前に転ぶ。枯葉が敷き詰められていたおかげで怪我をせずにすんだというところだろう。梓が体勢を治す前に、馨が彼の背に乗ってそれを封じた。
あとは梓のズボンの後ろポケットから、ペンダントを取り出すだけだ。腕をひねりあげられている梓に、彼をどけるほどの力はない。と、その時。
「梓から降りろー!」
木々を掻き分けて、サトキが飛び出してきた。そのまま馨の顔を蹴っ飛ばす。馨は後ろに吹っ飛んだ。
梓が自力で身を起こすより先に、サトキが梓の肩をつかんで起こした。
「梓!怪我は?顔に傷はないな?」
「だ・・・だいじょうぶ」
あまりにも突然な登場に、助けられた梓も驚いていた。サトキは梓の服についた枯葉をパンパンとはたいて落とす。
吹っ飛ばされた馨は、しかし自慢の運動神経でくるりと回転しきれいに着地する。金銀のきらびやかな頭髪が、サトキの起こした風によってはためいた。
「なんだ?いま、男の声が・・・」
耳につけた補聴器もどきを抑えながら、馨は目を丸くさせた。なぜか、その姿が見えていないらしい。きょろきょろとする馨に対し、仁王立ちになったサトキが大声で叱咤した。