茶房 クロッカス その1
サラリーマン生活に終止符を打った俺は、駅から歩いて数分のこの立地が気に入り、ここの店を居抜きで買って、喫茶店のマスターとしての第二の人生を始めた。
ところが、最初の計算や試算は全て外れ、毎日来る客の単価は千円にも満たないのに、それに掛けるべき人数も、なかなか二桁になる日が少なくて、あぁこんなことで生きて行けるのだろうかと、少々憂鬱になる日が多かった。
元々俺は、車の販売の仕事、つまりは営業の仕事をしていたから、客に接することには慣れていたし、毎日毎日営業成績を発表しては、肩身の狭い思いをし、ストレスで胃が痛くなる。そんな人生を過ごすよりは、もっと楽しい人生を送りたい。そんな安直な考えで転職を探し、たまたま歩いていて見つけた空き店舗のこの店を、なぜかとても気に入り喫茶店の経営を考え始めた。
当然、今まで経験のない職種なのだから、まず本屋に行って参考になる本がないか探してみた。経営に関する本や、喫茶店経営のノウハウ本などを探して数冊買うと、早速家に持ち帰ってひたすら読んだ。
よしっ! これでバッチリだ! と思って走り出したのに……。
作品名:茶房 クロッカス その1 作家名:ゆうか♪