オプション商法
『只今帰りました』
天使の少年は天上に帰り着くと、上司であるところの神に報告をすべく、宮殿に登った。少年を出迎えるように、玉座の神は優しい声をかける。
『よくぞ戻った。して、結果はどうであったかね』
『はい。かの男は代償として、二十三年六ヶ月と四日分の寿命を支払いました』
几帳面な報告を聞いた神は満足そうに頷くと、天使に労いの言葉をかける。
『お前はいつも良い成績をあげているな。褒めてつかわすぞ』
『有難う御座います。それというのも、神様の教えに忠実に従っておりますので』
『ふむ。昔は寿命を数十年分差し出せと迫ったものだが、それだとどんなに良い条件でも人間は頷かぬ。ところが細かく支払わせると、徐々に気持ちが大きくなってくるものよ』
『しかし、考えてみれば、哀れなものですね。神様が選定しているのは、皆残りの寿命が三十年を切っている人間だというのに……尤も、そういう人間の魂を循環させないと、人で地上が溢れてしまいますが』
玉座の神はそれには答えず、ただカラカラと乾いた笑い声を返した。天使は折り目正しく礼をして、宮殿を後にする。すぐに次の人間のもとに行かねばならないのだ。
入り口で同僚の天使から指示書を受け取り、少年は再び地上へと降りてった。彼の手にある書面の裏側には、上司である神の姿を写しとった印刷がしてある。真っ黒な襤褸布を身に纏い、煌く大鎌を持った、骸骨の姿の…