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アフタヌーンティ

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「どうかした?」

 私はいつのまにか目を閉じていたらしい。
 目を開けると吉原さんの顔があった。
 その顔には、さっきの緩みはどこにも見当たらなかった。私を心配してくれている顔だった。

「ううん、シンジ君の彼女になるにはどうすればいいのかなって」
「あっはっは! 真治は幸せ者だなぁ、こんな美人の恋人ができて。 うらやましい限りだ」
「今の言葉、お父さんや彩さんが聞いたらなんて思うかしら?」
「冗談はよせって」

 そのとき、私のバックの上に置いてある携帯から着信音が聞えてきた。
「ごめん、吉原さん」
 私は吉原さんに携帯電話を取ってもらった。
 折りたたみ式の携帯電話を開くと、そこにはお父さんからの着信を知らせるメッセージが表示されていた。

「彼氏からか?」
 私は無意識に笑顔になっていたらしい。
 その雰囲気を読み取った吉原さんが、それとなく探りをいれてくる。けれど、口調と表情で冗談だとわかる。
「違いま〜す」
 私は噛締めるように通話ボタンを押した。


「はぃ、ミキです」
『あぁ、お父さんです。今は吉原の家か?』

「うん、そうだよ。今、目の前に座ってるよ」
『今日な、お父さん遅くなるんだ。お風呂もご飯も準備しなくていいから』
「え、そんなに遅くなるんだ? なんで?」
『遅くに戻ってくる人がいてな、今日中にそのチェックをしないといけなくなったんだ』

「じゃあさ、その時間までは空いてるんでしょ? 一緒にご飯食べに行こうよ。いいでしょ? お父さん」

 私の携帯の着信音で、シンジ君が起きてしまったようだ。
 隣の部屋から、僅かにグズつく声が流れてくる。

「あんまりかまい過ぎると、甘えん坊になってしまうんだけどな」
 そう言って立ち上がった吉原さんは、ちょっとだけ眩しかった。
 悔しいぐらいに幸せそうだった。

 私は隣の部屋に行こうとする吉原さんを呼び止めた。
 そして、さっき飲み込んでしまった言葉を、もう一度声に出してみようと思った。

作品名:アフタヌーンティ 作家名:村崎右近