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   ――  302  ――
 やはり、なにか隠し事があるような。そんな気がする。
 いつものように不図と登校し、いつもより少し過激な会話をした今朝のことを思い出していた。
 不図と菫。
 重なる部分を探す方が大変な組み合わせに、俺はなぜか共通するものを感じていた。それがなんなのかは、俺が知りたいくらいだが。
 ともあれ、メシだ。
 考え事をするにしても、食事をしてからだって遅くはない。まずは二限目の終わり頃からうるさかった腹の虫を鎮めるに限る。メールで不図に別でメシにすることを伝え、一人購買に向かった。
 神ヶ崎学院の購買が混むことは少ない。無駄に金があるのか、校内に複数の購買があるためだ。俺はその中でも特に人が少ない、特別教室棟の購買を選んだ。やや離れた場所にあるが、それゆえ人がほとんど来ず静かであるため、何かを考えるには最適だからだ。
 それに、不図や皇さんとも顔を合わせづらい。できる限り会う確率が低いところが良かったのだ。
 だが。
「あら、桐紙先輩じゃないですか。こんなところで珍しいですね。どうかしたんですか?」
 そこにいたのは、金の癖毛に薄紫の瞳の少女。菫・ワイアームだった。
「げっ、菫。なんでお前が居るんだよ」
「貴方は本当に失礼ですね。此方がここにいて何か不都合でも?」
「いや、すまん。ちょっと考え事でな。あまり知り合いには会いたくなかったんだよ。だけど、八つ当たりはいかんよな。悪かった」
「……熱でもあるんですか。貴方が殊勝だなんて、今までで初めてじゃないかしら」
 お前なぁ。と言いかけたが、実際そうなので口ごもる。
 俺の様子を見かねたのか、菫は一つ溜め息を吐き出し、告げた。
「本当に重症のようですね。此方で良ければ相談に乗りましょうか?」
「遠慮しておく。お前も少なからず関係してるしな」
「それこそ相談して頂きたいんですけれど。でも、貴方のことだから決して言わないんでしょうね」
「悪いな。気持ちだけ貰っておくことにするよ」
 悪いですよ、本当に。と菫に言われつつ、俺はパンを物色し二つ程購入した。
「それで、昼食はどうしますの? 此方はこのまま中庭で食べるつもりですが」
「あー、よし。俺も一緒に食べていいか? ここで会ったのも何かの縁だろうし」
「そういう事でしたら、もちろん結構ですよ。今の貴方を放っておくほど、此方は冷血になれませんし」
 菫の許可も得ることができ、俺達は二人で中庭に向かったのだった。
 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 神ヶ崎学院には特別教室棟と一般教室棟の間に中庭がある。
 中央には木がひとつ立っており、周囲に大きな陰を作っている。とは言っても今は冬。広葉樹の葉は全て落ち、その足下に堆(うずたか)く積み上げられているのみだ。
 四方もそれは同様で、中央ほどの大きさはないものの、それぞれ木が植えられている。
 四隅の木にはベンチが一つないしは二つ置いてあり、いくつかは既に食事中の学生で埋まっている。いつも屋上で食べているから気がつかなかったが、どうやら隠れた人気スポットらしい。
 俺は菫と空いていた一席に腰掛け、
「さて、菫は何を買ったんだ?」
 パンの袋を開けながら尋ねる。
「買った? いいえ、今日はお弁当ですの。大したものはできませんので、サンドイッチですけれど」
「料理苦手なのか。なんだか意外だな」
「あら、桐紙先輩は此方にどんな印象を持っていたのかしら。料理が苦手な女の子はお嫌いですか?」
「いや、なんでもできそうな気がしてたんだが、お前にも苦手なものあったんだな」
「苦手というか、経験が足りませんね。練習すればできそうなんですけれど……」
「それは一般的に苦手の範疇じゃなさそうなんだが」
 くすりと、菫は口元をほころばす。
「でも、此方にだって苦手なものはあるんですよ?」
「へぇ、それは何だ? 万能そうなお前の数少ない弱点だなんて、是非とも教えてくれ」
 冗談めかしてそう言うと、
「桐紙先輩、貴方です」
 菫に人差し指でビシリと指される。
「…………俺?」
「ええ。貴方です。此方の想像だにしないことをやったり言ったり、妙に挑発してきたり、ムキになったり、そんな事をするのは此方の知る限り貴方だけですよ」
「それは失敬。でも俺、そんなに予想外なことしてるか?」
「してます。神出鬼没で弁が立ち、能力がありながらただの学生で在り続ける。我を通しながら教師につけいる隙を与えず、一説には屋上を含む学内全土に出入り自由。そして歴代最悪の名を恣(ほしいまま)にする生徒会長カップルと仲が良い。貴方は一体何者なんですか?」
「ただの学生だけど」
 なんのことはない、ただの学生である。
 生徒会長カップルと仲が良いのはたまたまだし、学内出入り自由は生徒会を手伝うためだ。我を通した分は働けば、教師から文句を言われることもない。能力があるって言うのは部活のことだろうが、それは身体を鍛えているせいだ。
 結局、俺は所詮一学生に過ぎない。それ以上のなにかであるわけもないのだ。
 しかし菫はそう思っていないらしく、やれやれといった様子で溜息を吐く。
「普通の学生はこんなに噂になりません。先輩はもっと普通でないことに自覚を持って下さい」
「そう言われてもな」
 その後も話は続いたが、結局俺は俺だと再認識するのみで昼休みが終わってしまったのだった。