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   ――  301  ――
「おはよう、句冗。今日はなんだか疲れてるね。どうかしたの?」
「いや、ちょっと知り合いが元気でな。あの野郎、気分でむちゃくちゃしやがって」
 言ってることはイマイチわからないが、苦労しているんだろう。菫ちゃんやぼくに関わろうとする辺り、苦労人と言うよりはお節介なだけかも知れないが。
 それでも、彼の行動に救われる事は少なくないだろう。もちろん、ぼくに関しては言うまでもない。
「で、お前は聞いたか? 旧都の方でビルの倒壊事故があったらしいぞ。古くなってたらしいが、詳しい原因は不明だそうだ。似たような古いビルの多い旧都だ。他にもある可能性を思えば、物騒な話だよな」
「……へぇ。殺夜とみよちゃんは旧都のはずだし、それとなく伝えると良さそうだね」
 あぁ、そうだな。と句冗は答えたが、ぼくはそれをほとんど聞いていなかった。
 ビルの倒壊。
 それはぼくが起こしたと言っても過言ではない。
 ぼくの《異端》――《忌嫌人物(キープアウト)》たる能力だ。
 殺夜の《異端》、《世界災厄(バッドラック)》はあらゆる攻撃が通らない、無敵化の能力だが、ぼくの《異端》はそんな高尚なものじゃない。
 もっと愚劣で最低の能力だ。
 今でこそ加減もできるようになったが、以前は生活に影響が出るほどで、ぼくは不幸を振りまき続けていた。その残滓は今なお残っており、だからこそぼくは孤独を望むことが多い。
 他人を無差別に不幸へ陥れる恐怖というのは、それを目の当たりにした張本人以外には理解できないだろう。なにしろ張本人たるぼくにすら理解できないのだから。
「で、不図。……不図? 気が抜けてるみたいだが、大丈夫か?」
 声と動きが重なり、ぼくはやっと気付いた。
「あ、あぁ。ごめん。ちょっと呆けてた。なに?」
「いや、このところ物騒だな、と思って。失踪事件や殺人事件が続いて、昨日は原因不明のビル倒壊だろ? 少しばかり不安でな」
 それなら――、と口が滑りそうになるのを止める。
 最近続いていた殺人は、昨夜にぼくが殺した殺人鬼によるものだ。失踪事件も、恐らくは彼女によって殺され、遺体が見つからなかっただけだろう。だから大丈夫だと眼前の友人に伝えたいが、その欲求をこらえる。
 それを教えてしまえば、人の良い彼を人外の世界へ引き込むこととなる。ぼく以外がどうするかは知らないが、ぼくだけは、彼をこちらに連れてこない。彼が初めての友人になったとき、そう誓ったのだ。
 だから。
 と、言葉を紡ごうと口を開いた瞬間、
「俺はな、お前と菫が一番心配なんだ。皇さんやみよちゃんはブレないし基礎性能高いが、不図。お前と菫は、足下が覚束ない感じなんだ」
「確かに、ぼくは身体能力低いけど、」
「違う」
 ぼくの言葉を、句冗は止める。
「違う。不図、お前の身体能力が低いことは知ってるけどな、今話してるのはそんなことじゃない」
 一息。
「お前の人間としての根幹が揺らいで見えるんだよ。菫もだけどな」
 思わぬタイミングでの追求に、ぼくは乾いた笑みを浮かべる。
「嫌だなぁ、まるでぼくが情緒不安定みたいじゃないか」
「その通りだよ、不図。俺にはお前が、何かを言わなければ思いながらも話していない。そんな風に見えるんだ」
 息をのむ。同時に、しまったと――そして後悔が来た。だが。
「冗談だ。そんな深刻な顔するんじゃない。まるで本当に隠し事があるみたいじゃないか」
 苦笑しつつ、句冗はぼくの先を進む。
 ……句冗、冗談ってのはどこからだい?
 そう聞きたいのを抑え、ぼくは句冗の後を追うのだった。