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   ――  204  ――
 神ヶ崎市の夜は更けていく。
 その闇に紛れ、音もなく蠢(うごめ)く影が一つ。
 否。
 二つ、三つ、四つ――。
 夥(おびただ)しい数の影が、地を這うようにざわめく。
 死んだように静まった街に、動くのはただ影のみ。
 誰に気付かれることもなく。誰が気付くこともなく。影は影にて動き続ける。
 そこに、小さいながらも確かな靴音が届く。
 瞬間、影はそのなりを闇の奥へと潜めていった。
「醜悪である。醜悪であるな、この街は。ここまで不安定な土地でありながら、不自然なまでに安定している。全く持って醜悪である。我輩の魔術を魔法へと昇華するのに、実に相応しい」
 鬣のような金の髪をオールバックにまとめ、闇夜に薄く碧眼が光る。細く引き締まった身体にストライプ柄をした深い藍色のスーツを纏わせ歩む。
 まだ三十路前には見えない風貌は、その短い生涯に釣り合わない威風と諦観が故のものだ。
 今宵、若き大魔術師が神ヶ崎市に訪れたことを知るのは、ただ闇夜の影のみだった。