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後ろ姿の少年に7 【後ろ姿の少年に】

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「たいしたことじゃない、気にするな」とか

「ここで見ているから、しっかりやるんだぞ」とか、

そんな言葉をかけてほしかったのだ。あの時、誰かがそんな言葉のひとつでもかけてくれたら、少年の心は頑なにならずにすんだかもしれない。だがそれは言っても仕方のないことだ。今のわたしに出来るのは、三十年の歳月を隔てて今もなおひとり凍えている、わたしの中の傷ついた頑なな少年に、わが子を持つことによってわたしが父とともに見出した言葉をかけることだけである。

「わたしは、おまえを忘れてはいない。おまえのそばでいつも見守っている。だから、前に踏み出しなさい」

 少年はこの言葉を受け入れてくれるだろうか。もしかしたら、受け入れてくれるまでには、さらに長い年月を必要とするかもしれない。だが、同じように長い年月をかけてたどり着いたこの言葉を、わたしは少年が尊重をし、「自分はひとりじゃなかった」と思ってくれるような気がしている。わたしはこれからも、わたしの父の姿とわたしの子供の姿に重ね合わせて、この同じ言葉を、声なき声でかけ続けるだろう。

 わたしの心の中の村道に、肩を落としてたたずむ、あの、後ろ姿の少年に。