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琥珀ちずる
琥珀ちずる
novelistID. 30836
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太陽と素足の君

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和彦は、焦った様子で答えた。
「千尋、俺たち今から着替えるから先に玄関で待っててな」
「うん!」
俺たちと一緒に行けると分かったからなのか、涙は引っ込んだようだった。(こういうのを確信犯というのだと思う)

「千尋!行ったぞ!」
「待ってぇ」
それから、俺たちは祖母の家から程なく近い海岸で海水浴やビーチバレーをして遊んだ。
 あの時、和彦の意見を否定しなかったのには実は訳がある。俺は一人っ子で、幼少の頃から近所に住んでいた千尋が妹代わりだった。
ある日、彼女の母親が不在中に千尋の父親が(俺自身、あの男に対してこの表現は余り使いたくない)彼女の体に手を出してきたのだ。彼女は俺の家に助けを求めに来た。チャイムが鳴り、俺が玄関を開けたとき、怯えた目をして唇を血が出るほどきつく噛み締めたままの彼女がいて、理由を聞こうとすると彼女は急に俺に抱き付き大声で泣き出した。俺は、何も言わず自分の腕の中でただただ泣くばかりの彼女を見て、こんなにも強がっている彼女を護れるのは、自分しか居ないと思い、それを決心したのである。これは、巧と出会う以前の話であるから、巧も知らないのだ。まあ、彼女が引っ越てしまったことで、俺の決意もなし崩しになってしまうのだが。
「修!貝殻!」
「おっ綺麗だな」
貝殻を見せて笑う千尋の笑顔が、やけにまぶしく大人に見えた。余りの大人っぽさに胸の辺りがざわついた。

「修。どうした、顔真っ赤だぞ」
千尋がまた海へ駆けて行ったとき、急に名前を呼ばれて焦った。
「えっ、いや……なんでもねぇよ」
「修。やっぱりお前、千尋ちゃんの事好きなんじゃねぇか」
「か、和彦!」
いきなり後ろから声がしたので驚いた。
「何驚いてるんだよ。和彦さっきから居たぜ。なぁ」
「ああ、って言うか修お前挙動不審すぎ。まさかの恋わずらいって奴か」
「恋わずらいって誰にだよ」
巧は、訳が分からないと言った表情で言った。
「何言ってるのさ、千尋ちゃんに。
だよ」
「修、お前まさか」
「……別にそんなんじゃ「正直に言え。修」
巧が真剣な表情で言った。
「ああ!そうだよ!だからどうした!たくっなんで分かっちまうかなぁ」
俺は、へなへなとそこに座り込んだ。恐らく顔は茹で茹蛸のように真っ赤だろう。
「修。良いか、今夜海岸で花火やるからって千尋ちゃんを誘い出せ」
巧は、俺の隣にしゃがみ込み、肩ガシッと組むと声を潜めて言った。
「何でだよ」
俺は、まさかと思いつつ言った。
「何って、決まってるだろ。知っちまったお詫びに俺たちが告白をセッティングしてやるっていってるの」
いかにも最初からそうであったかのように言うものだから、俺は否定する言葉も出なかった。

 その日の夜、
「修。上手くやれよ!じゃ、また後でな」
「失敗したら承知しねぇぞ」
そういって、二人は海岸へ向かった。
「はいはい」
俺は、二人を玄関から送り出した後、どうしたものかと悩みながら千尋の部屋へ向かった。
『コンコンッ』
「千尋ぉ、入るぞ」
『はぁい、良いよ!』
中から了解の返事を聞くと、中へ入っていった。
『ガチャッ』
「……次の絵、描いてたのか」
「うん」
彼女の描いていた絵には、オレンジのバックに子を抱く母親の姿が描かれていた。
千尋の描く絵には、こういう幸せそうなほのぼのとした絵が多い。逆に言うと、暗い絵は描こうとはしないのだ。恐らく、彼女の中で、そういう絵を描くことを拒んでいるのでは無いかと思う。
「花火やるけど、千尋行くか」
「うん!行く行く!片付けるから、玄関で待ってて」
と、千尋は満面の笑みで答えた。
玄関に行くとしばらくして水色の繋ぎから、白のワンピースという格好で来た。
「どう……かな」
「すげぇ似合ってるよ」
「ありがと」
千尋は、照れくさいのか頬を赤くした。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
と、千尋から手を繋いできた。俺はそれを強く握り返した。

 「おーい!修!こっちこっち」
「おぅ!」
巧が手を振って俺たちを呼んでいた。
蝋燭に火をつけ、不意に彼女の顔を見やった。火に照らされた彼女の顔は、昼間見たときよりも、少しだけ色気があった。その色っぽさに俺は、恥ずかしくなって、顔を背けた。俺は、一言も話さないまま、とうとうその瞬間を迎えた。千尋と雑談していた巧が急に
「俺、のど渇いた」
と言い、和彦も賛同するように
「俺も俺も」
と言った。
「修、俺コーラが良い」
「俺ファンタのオレンジな」
一瞬『何で俺が』と思ったが、二人の顔に『千尋ちゃんと二人で行って来い』と書いてあったので、
「分かった」
と立ち上がった。
「千尋、一緒に来るか」
と、とりあえず千尋に声を掛けることも忘れない。
「うん」
千尋は、満面の笑みで答えると、俺の横について歩いて行った。

 「巧、修は上手くやってくれるでしょうかねえ」
「さあな。まあ、失敗したらアイスでも奢ってもらうかな」
「俺、スーパーカップが良いな」
「おいおい、まだわかんねぇだろ」
「でも、悔しくねぇのかよ。大の親友に彼女が出来てさ」
「悔しいよりも、アイツの幸せ願ってやるのが親友の務めって奴だろ」
「らしくねぇじゃん。その台詞」
「そんなことねぇよ」

 千尋と夜道を歩いている。でも中々キッカケが掴めない。千尋も気まずいのか、終始俯いていた。
「なぁ、千尋はさ、好きな奴とかいるのか」
『マジでいたらどうしよ』とか思いつつ聞いてみる。
「いるよ」
「そっかぁ……」
正直ショックだった。
「誰だよそいつ」
「教えない」
「何でだよ」
「だって、その人絶対振り向いてくれないってわかってるから」
「何、最初っから諦めてるんだよ!」
不意に声が強張ってしまう。
「だって、ボクの好きな人直ぐ隣にいるのにまるで、妹の様にしか接してくれないんだもん!」
叫んだかの様に言うと、フイッと顔を背けてしまった。
「そんなことねぇよ」
「えっ」
俺は、後ろから彼女を抱きしめると、耳元で囁くように言った。
「多分、そいつはお前のこと凄く大事にしていて、大好きだと思うぞ」
「本当に?」
俺は、ゆっくり腕を解くと千尋の体を俺の方に向かせて言った。
「本当だって。俺も好きだよ千尋」
「えへへ」
と、千尋は照れ笑いをすると、俺の太い腕にその細い腕を絡ませてきた。
『戻ったら、二人にアイスでも奢るかな』
と自分にしては気が利いたことを考えながら、夜道を二人で歩いて行った。

 そして、とうとう帰るときになった。せっかくだからと、祖母がバス停まで見送りに来てくれた。そこに千尋の姿は無かったけど。
「ごめんねぇ。ちぃちゃん、修くんの前で泣きたくないのか、幾ら起こしても布団から出てこなくて」
「あっ、いえ大丈夫です。千尋にもよろしく伝えて下さい」
俺は、少し寂しいと思いつつも、それは口にしなった。
「こいつ、千尋ちゃんに最後会えなくて寂しいとか思っているの、あえて口に出しては言わないんすよ」
と、和彦が言った。全く俺の気持ちが台無しである。
「和彦、お前な」
 俺が、和彦の胸倉をつかもうとしたその時
「おい待てって。あれ、きたじゃん」
「えっ」
俺が後ろを振り向くと、千尋がパタパタと走ってくるのが見えた。
「夜遅くまで描いていたら、寝坊しちゃった」
作品名:太陽と素足の君 作家名:琥珀ちずる