祭のあと
少女は雨に濡れながら、よく分からないメロディをハミングしつつクルクルと回って踊りはじめた。僕はどうしようもなくて、それを眺めている。少女はこちらに流し目を送り続けているような気がするし、雨は少女の浴衣を濡らし、ボディラインを強調させているし、僕を誘っているとしか思えない気分になる。
雨で貼り付く浴衣が強調する育ちかけの乳房
首筋から胸元に流れ込む雨雫
雨に濡れて光る髪の毛
僕は、もう、どうなったって知るか!そう、思いながら少女に抱きついた。
刹那
雨は止んだ
抱き締めたはずの少女が消えてしまった
僕は呆然として辺りを見回すと、元から雨など降っていなかったかのように世界は変わってしまっていた。地面は濡れていないし、空は晴れているし、「かなかなかなかな」と蝉は鳴いている。足元を見ると、水が少しだけ残った透明のビニールの中に一匹の金魚が残されていた。白地に朱色の刺し色。必死に水の中へ戻ろうとジタバタもがいている。僕はそれを眺めると、袋を手にとって、端に溜った水を溜めて、そこへ金魚を誘導する。金魚にしばらく呼吸をさせてやった。そして金魚が一息ついたであろうことを確認すると袋ごと勢い良く握り潰した。手に残るぬめった感触、それでいて固い感触、少し手が痛い。命が手の中で消えていく感触。金魚の死骸の入った袋を投げ捨てる。僕は泣いている。
「ああ、もう取り返しがつかないのだな……、戻れないのだな……」
僕は、そう独り言を言いながら、溢れる涙を止められずにいた。
祭のあとだった。