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Stern

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 医者が洸の死を宣告した時、そこにいた人達は泣き崩れていった。深い悲しみがその場を支配した。
 でも、その中で華月ちゃんは泣き出すことはなかった。
 寧ろ、微笑んでいた。心の奥からあふれでる愛情を含んだ優しい顔。
 今までのどの笑顔より、綺麗で、残酷だった。

『だから、もしわたしが死んでしまったら、そのゆびわは美柴さんが持っていてください』 
 それが華月ちゃんが最後に残した言葉。私への遺言。

 華月ちゃんの体が私の視界から消える。
 フェードアウト。
 床に倒れこむ音が静かに響く。
 あわてて近寄り、最適な措置を試みようとする医師。
 心拍停止。
 その声だけがはっきりと聞こえた。
 周りで、慌ただしく動く人達。
 全てがスローモーションのように、儚く、流れた。



 懸命の治療も空しく、洸と華月ちゃんはこの世を去った。医師は華月ちゃんの死因は洸が死んだことに対するショックによるものだと言っていた。
 でも、私には華月ちゃんは自分の意思で洸のもとへ向かったように思えた。洸といつまでもどこまでも一緒にいることを彼女は選んだみたいだった。
 それは華月ちゃんにとっては不幸ではなく、幸せ。ごく当たり前の事。
 私は家を出て空を見上げた。
 照りつける太陽。今日も暑くなりそう。
 私はポケットから指輪を取り出した。華月ちゃんが私に託した物。
 洸と華月ちゃんが、幸せに生きていた、いや、幸せに生きている証。
 きっと今頃、どこか、お空の上で手をつないでのんびりと一緒にお散歩をしているに違いない。
「私は信じてる」
 その言葉は大空に柔らかく溶けた。
 青空の下に指輪を投げる。
 太陽の光に反射して、眩く煌く。
 真昼のお星様。
 とてもとてもとても、綺麗で、幸せだった。

 
作品名:Stern 作家名:砌 朱依