先読み犬
子犬だったジョンも年をとり、僕も大人になった。
足腰が弱くなったジョンを気遣い、僕たちは公園で一休みする。
「お前はさ、ホントにどうやって死ぬ人間を予知してるんだろな。」
頭をなでながら呟く。ジョンは不思議そうな顔をして、僕を見ているだけだった。
その夜、僕は夢を見た。
それはいつもの散歩コース。
ジョンと出かける時間なのに、なぜか僕は一人で歩いていた。
その先に、血まみれで立つ女の人。
彼女が言った。「助けて」と、細い腕をこちらに伸ばして……。
僕はそこで目を覚ました。
(い、今のは……!)
朝日が僕の部屋を照らす。
荒い呼吸を整えて、冷静になる。
きっと今のは、今日ジョンと散歩に行った先で死ぬ人間……。
ジョンはいつも、こうやって助けるべき人間を知って、僕を導いてきた。
「……ジョン!」
僕は彼の元へと走った。ジョンと同じ力を身につけたことが嬉しくて。
パジャマのまま、ジョンの犬小屋まで行くと、彼は丸くなって寝ていた。
「ジョン、お前がいつも、どうやって僕を導いてるのかやっと分かったよ!」
ジョンは起きない。いつもなら、僕の足音を聞いただけで体を起こすのに。
「ジョン?」
体に触る。氷のように冷たかった。
僕には最初、理解できなかった。違う。したくなかった。
ジョンが………死んだ。
「ジョン……。」
力なく、名前を呼ぶ。
当然、返事はない。昨日までは元気だったジョンが……。
混乱の中、僕は一つのことを理解する。
僕が授かった予知能力は、もともとはジョンのもの。
それを僕が受け継いだ。
失意の中で僕はジョンの体を抱き上げ、一つだけ彼に伝えた。
「お前の使命、僕が受け継ぐよ。」
腕の中のジョンが、ふと、嬉しそうな顔をした。