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先読み犬

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僕の犬は特別な犬だった。
名前はジョン。彼はどこにでもいる野良犬だった。
十年前の雨の日、僕は子犬だったジョンをひろったんだ。
ジョンはゴールデンレトリバーで、頭のいい犬だった。
そして、何とも不思議な犬でもあった。
ごくたまにだけど、彼はいつもの散歩のコースを嫌がることがある。
最初は彼のワガママだと思っていた。

「こらジョン!いつもの散歩コースに戻るんだ!」

「ワン!」

まるで嫌だというように大きく鳴いてリールをぐいぐいひっぱっていく。
子犬とはいえ体の大きなジョンに、子供だった僕はひっぱられた。
やがて、手からリールが離れた瞬間、ジョンは走り出した。

「あ!こらジョン!」

あわてて僕はジョンを追う。
目の前を走るジョンは、走りながら時々僕を振り返る。
ジョンがスピードを緩めた。

「ジョン!捕まえたっ!」

彼の体に手が届きそうになったとき、僕は横から来た何かに突進され、
体のバランスを崩す。

「わ、わわっ!」

べシャン!と派手に転ぶ。その瞬間、隣を車が猛スピードで走り抜けていった。
ぶつかってきたのは、僕よりも小さな男の子だった。
目の前でジョンがしっぽをふって僕と男の子を見ている。
もし僕が、この子とぶつからなければ、この子はきっと今頃……。
頭の中を惨劇が駆け抜けた。
僕はジョンを見た。
そもそもジョンがいつものコースを嫌がらなければ、この子は死んでいたんだ。
さっきの車にひかれて……。

(偶然だよね、こんなの。)

その時は自分にそう言い聞かせた。
でも、それだけでは終わらなかった。
ジョンがいつもの散歩コースを外れるたび、僕は死ぬ運命にある人を助けた。
自殺しそうな人、溺れている人……。
大人も子供も。
僕たちは、そうして十年を過ごした。

作品名:先読み犬 作家名:月 桂樹