天通商店街
「ええ……。そう……。ついさっき……」
大きな病院の廊下で女性が一人、せわしなくあちこちへと電話を掛けていた。いくらか泣いたらしく、目元を赤く腫らしている。
そこへ一人の男性が小走りに近寄ってきた。慌ててきたようで少し、息を弾ませている。
「お義母さん、亡くなったって……」
そう言って婦人に声を掛けた。女性は静かに頷き、男性を伴って近くの病室へと入っていった。
病室のベッドの上には、既に冷たくなり顔に白い布を掛けられた老婦人の遺体があった。女性がその布を外すと、とても穏やかな微笑を浮かべ、まるで眠っているかのような表情の老婦人の顔が現れた。
女性はその顔を見て、再び泣きそうな顔をしたが、努めて微笑みを作った。
「本当にね、眠るように逝ったのよ。ずっとにこにこしてた。きっと父さんが迎えに来たのね。母さんと父さん、本当に仲良しだったから……」
「お義父さんが亡くなってから七年だったっけ……。お義母さんも寂しかったのかもしれないな」
「ええ。でも……こんな言い方は何なんだけど、母さんが幸せそうで良かったわ」
男性はその言葉に頷くと、再び女性と共に病室を出ていった。
病室の窓からは穏やかな日差しが差し込み、老婦人を見送るかのような優しい風が吹き込んでいた……。