バベル。Ⅰ
Episode.0 プロローグ
その“塔”は空高く昇り、
その“階段”は地の底深くへのびて、
その“聖女”は祝福と絶望を、
その“声”で奏で消し去り――――
―――天への扉を崩し去っていく。
人々は云う、その塔は天の国へつながると。
人々は言う、その階段は悪のみを地へ誘うと。
人々は謂う、その聖女は天使の声と悪魔の瞳を持つと。
人々はイウ、その声は神をも変えていくと。
「あの塔にそんな力あるとか本当に信じてるのかなー。」
「おま…教会のシスターがそんなの言っていいのか…?」
「あのね、私は好きでこんな黒い服着て
居るかも分かんない神様拝んでるんじゃ無いのよ?!」
「黒い服とか居るかも分からないとか言うなよ…。」
その時計塔が見える教会の中、
メガネをかけ、頬を膨らませる修道女と
黒髪のいかにも好青年な感じの男がそんな事を言い合う。
この教会の売り文句は確か
「その愛は誰の為か、しかとその声でその身へ刻め」
だったはずだが、そんな壮大な事は感じさせない様な、
恐ろしいほど平凡な教会であった。
「時計塔は確かにすっごいよ、金かかってるし。」
「だから!!お前神を崇めろよ!」
「うるさいな!!お前だって牧師の癖に生意気じゃないか!!」
「生意気とか言うなよコノやろう!!」
その時計塔は修道女が言うように、
数多の硝子と幾多の金属でできており、
レンガで造られた塔に大きな時計盤がついてある。
その時計盤は金属で縁取られ、ローマ字で記された数字も
色とりどりの宝石が修飾されてある。
この都会と呼ぶにふさわしい街「ウィリィ」の中でも
一際輝いている建造物であった。
「あの宝石って一個いくらかな!?あんだけあるんだから一個くらい くれないかな!?」
「馬鹿じゃねーの。」
「馬鹿っていうほうが馬鹿なんだぞ知ってるか。」
修道女――リスティ・シンズ、齢18。
街の権力者であるシンズ家の娘である。
両親の選択で修道女という役職につかされている。
三つ年上の兄は今や弁護士となっている。
牧師――フォール・クリス、齢21。
代々教会の牧師を務めてきた家の一人息子。
彼も両親の選択でこの役職についている。
フォールというのは古い女性名であり、
フォール自身恥ずかしく感じている。
故に彼は知り合いにクリスと無理やり呼ばせていた。
二人とも嫌々ながら教会という場所で働き始めたが、
決まった時間に時計台に跪き、
たまに人々の懺悔を聞き許し、
稀にある結婚式に聖書を読み上げ、
人より少しひっそな食事をするだけでいいこの役職は、
日々汗を流し働かなければならない農家よりはマシだと思い始めていた。
そんな二人と、その時計塔の、とある物語――。