不幸な世界にて
その本を読んでいたのは、一人の老婆のように老けた女性だった。
彼女の近くには一人の子供がいた。部屋は壁に人型の影が残ってい
るような汚い部屋だった……。
「……これで、おしまいよ」
女性はそう言うと、本をパタンと両手で閉じた。
「昔の人は大変だったんだね。お母さん」
子供が言いました。この女性は母親のようだ。
「そうね」
母親はそう言うと、本を持っている両手の下にあった手で、その子
供の頭をなでた……。
「お母さん! 私の頭もなでてよ!」
その子供の声は、今なでられている子供のすぐ近くから聞こえてき
た。しかし、その場に子供は一人しかいなかった……。
「はいはい」
母親はそう言うと、2本の手で本を持ち、1本の手で子供の頭を
なでながら、残っていた1本の手で、今なでている子供の頭のすぐ
下にある子供の頭をなでた……。