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クリスマスお父さん

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●第十三話

「遅いぞ」
「んーー!!」

 勝利を確信して緊張を解いてしまった私は、入ってきた上野に体を向けてしまった。

 テープで口を塞がれたままの娘の叫びで振り返った私に、男の一人が身体ごとぶつかってくる。
 左腕に鋭い痛みが走る。
 反射的に男を突き飛ばす。男の手には、赤黒く染まった小さなナイフが握られていた。
 私の左腕から、生暖かい液体が滴り落ちる。

「チッ!」

 私か、上野か、その男か、あるいはその三人かの舌打ちが響き渡る。

 四人が連鎖的に動いた。
 ナイフを持った男は私にナイフを突き出し、上野はもう一人の男を抑えようと動き、そのもう一人の男は上野を突破して逃げようと動いた。
 私は男のナイフを持つ手を蹴り上げ、獲物を奪うことに成功した。



 ナイフを失い、私達に勝てる見込みがなくなった結果、逃げることに重点を置かれ、入口にいる上野は二対一になってしまい、結局三人とも逃げられてしまった。

「捕まえるのが目的じゃない」
 上野は三人が車で逃走したのを確認してから戻ってきた。
 私は男が持っていたナイフを使い、娘たちを縛っていたテープと紐を切り終えたところだった。
 娘は、私が拘束を解く間、ずっと黙って俯いたままだった。

 上野は私の左腕を見て、少し顔をしかめた。
「応急処置はしておく。救急車を呼べ」
 見た目よりもひどい怪我なのだろう。
 私を巻き込んだことに対する申し訳なさがハッキリと顔に浮かんでいる。
「コレを……」
 娘がハンカチを上野に差し出した。
「ん? あぁ」

 上野は馴れた手付きで娘のハンカチを切り裂き、私の二の腕にきつく縛った。
 そして私のハンカチを傷口に当て、残り半分になった娘のハンカチで軽く巻きつけた。

 もう一人の女の子はしばらく黙ったままだったが、私の左腕の応急処置が終わると同時にわっと泣き出した。
「ごめん…ごめんね……こんなことになるなんて」
「気にしないで、サヤカ」

 私はその女の子を見て、上野の目的が何であるのかを理解した。
作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近