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クリスマスお父さん

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「私はやっていない」
その一言だけを告げ、席を立った。
「待って、今回は兄さんに絞って調査を進める方針らしいの」

 ―― 兄さん

 物心付いた時、すでにすみれが傍にいた。本当の兄妹だと思っていた。
 私が中学に上がった年、すみれが妹ではなく親戚の子であるということを聞かされた。
 すみれが中学に上がった年、私が実の兄ではないこと、母が実の母親ではないこと、父が実の父親ではないことを、すみれも聞かされている。
 私はショックで飛び出したすみれを探しまわって、隣町の公園で泣いているところを見つけた。
 それは冬だった。帰り道に雪が降りだして、とても寒かったことを覚えている。『ごめんね、お兄ちゃん』と言ったすみれを、私はずっとずっと守っていこうと決心したのだ。

「今や、噂の人か?」
「冗談では済まないわよ」
 立ち上がったままの私に、力強い視線をぶつけてきた。
「大丈夫、私は潔白だよ」
 私はコートを羽織り、両手をひらひらさせておどけて見せた。
 すみれは相変わらず表情を強張らせたままだった。

 店を出るとき、つい領収書を頼んでしまったが、このコーヒー代は経費にはできないだろうな、と思った。


 ―― 外部の人間も雇っているみたいなの

 少し気になることを言っていた。外部の人間、つまり探偵だ。
 私の頭に『上野 修平』という名前が浮かんでくる。

 ―― 先日うどん屋で出会ったのは偶然ではなかったと?

 すみれが言っていた、“私に絞って調査する”ということを考えると、無理はないかもしれない。
 犯罪者の心理としては、近くを嗅ぎまわっていると知れば、やましいことを隠そうとする。下手に隠そうとすると、どこかに無理が生じて逆に見つけやすくなる。
 彼の調査方法がそういう基本的とも言える犯罪者心理を突いているとしたら……。

 ―− そうか、そういうことか

 そうすると、毎晩のように吉原と出掛けていることは格好の的なわけだ。
 証拠を消して周っていると思われているに違いない。すみれと会っていたことも知られているのかもしれない。いや、見張られていたと思っていいだろう。

 口元に笑いが浮かぶ。

 私は何もやっていないのだから、この状況を楽しむ余裕がある。
「おもしろくなってきた」
 見上げた会社のビルが、いつもより少し小さく見えた。
作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近