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クリスマスお父さん

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●第一話

 十二月二十四日 クリスマス・イブ
「吉原、悪いが先に帰るぞ」
「おぅ、おつかれ」
 吉原は開発端末の画面から目を離さずに応えた。
 彼には世間に合わせて祝い事をするつもりはないらしい。わざわざ値段が上がっているときに行くのは勿体無いのだそうだ。
 ロマンの欠片も持っていないように見えるが、『内蒙古の夕陽がとても綺麗なんだそうだ』と、私が内蒙古に行くきっかけをつくったのは吉原だったりするのだ。
 仕事中の彼からは、『夕陽を観にいこう』という雰囲気は微塵も感じられない。私ですら誘われたときには『?』が頭の上に満開だった。

(ま、人それぞれだしな……)
 ほどほどにな、と声をかけて、開発室のドアノブに手を伸ばした。

 プルルルル……

「…電話、鳴ってるぞー」
 吉原は開発端末の画面から目を離さずに私を呼んだ。鳴っているのは開発主任専用の内線電話だ。つまり、私宛ての電話ということだ。
「……見逃してくれっ」
「ダメだ」
 両手を顔の前で合わせて頼んだが、吉原の答えはNOだった。
「くっ…」
 不愉快極まりない音を鳴らしている専用電話まで歩く。
 相手があきらめることを期待しゆっくり歩くことが、今の私にできる精一杯の抵抗だ。
「はい、開発部主任席」
 私は渋々電話を取った。

「チーフ!! バグが出ました!!」
「!!」

作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近