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クリスマスお父さん

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 会社の入口で、思わぬ人物が私を待ち受けていた。
 査察部の『藤田すみれ』という女傑だ。私と彼女との間にはただならぬ腐れ縁がある。
 
 彼女は私の母の弟(異母姉弟)の娘で、幼少〜中学時代を一つ屋根の下で暮らした。三つ歳下で、兄妹のように育てられ、周りの友人には本当の妹だと思われていた。
 彼女が中学を卒業した年、生活と収入が安定した父親の元へと引き取られて行った。
 大学時代には合気道の大会において劇的な再会があり、様々なドラマを経験したものだ。
 さらに偶然にも同じ会社に就職。それぞれ査察部と開発部において順調に出世している。

 そんな経緯があるものだから、私は彼女を「すみれ」と呼び捨てにしている。それは本人も了承していることだ。
 だが、それが原因で不倫の噂を立てられたりもした。
 今となっては『久しぶりね、食事でもどう?』などという間柄ではないし、たとえそうだとしても、わざわざ私を待つほどのことでもない。

 私にどんな用事があるのか見当もつかなかった。
 
「少し時間あるかしら?」
 白のマフラーを首に巻き、白いコートを着ていて、まるで雪女のような白い装いだった。
 癖の無い長い黒髪が、それぞれの黒さと白さを際立たせている。

「遅刻するのはまずいのだが?」
「すぐ済むわ」

 返事を予測していたかのように即答し、先程のコンビニの隣にあるに目線をカフェに投げた。
 私は手に持っているコンビニの袋を、苦笑いと共にすみれに向けて差し出した。
 すみれは、やれやれといった顔で目をつぶり、首を小さく振ったあとで、「十時にあの店で待ってるわ。大丈夫でしょう?」と言うと、私が「あぁ」と返事するよりも早く、くるりと背を向けてさっさと中に入って行った。

 査察部の人間に呼び出されることは気分の良いものではない。
 たとえ個人的な呼び出しであろうとも、やましいことが存在していなくとも、やはり気持ちの良いものではない。

 黙々とオニギリを食べた。吉原のようにうまく海苔が巻けずに少々手間取ってしまった。
 すみれが何の用事で私を呼び出したのかが気になって仕方がなかった。
 どう頭を捻ってみても、思い当たる節はない。
 吉原に相談しようとも思ったが、あと二十分足らずでは何もしようがない。
 少し早いがあの喫茶店に行くことにした。
作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近