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クリスマスお父さん

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●第八話


 結局、その夜は吉原の言っていた『うまい肴料理の店』に行くことになった。
 妻が夕方のうちに着替えを取りに帰っており、そのまま日没を待たず義父の元へと戻っていたことが決め手となった。

「……旨いな」
 素直に旨かった。こんな店が近くにあるなんて知らなかった。
 この街にはまだまだ旨い店が隠れているのではないかと思ってしまう。
 幸か不幸か、その店は家族で訪れるような店ではなかったのだが、仕事関係の人間と一緒に酒を飲むところでもないように思えた。

 店内に入るとまずテーブル席がある。
 テーブル席は、床から三十センチほどの隙間を空けた壁に三方を囲まれていて、唯一開かれた通路側も、通路の反対側はまた壁という、客同士が互いに干渉しにくい造りになっている。

 そしてカウンター席。
 二人分の席が一つにまとめられていて、その間にはやや広いスペースが設けられていた。
 テーブル席に比べて少しだけ薄暗い雰囲気が漂っているカウンター席は、『部長と不倫相手』という組み合わせが似合いそうだと思った。

 一番奥には座敷がある。今、私と吉原が座っているところだ。
 板張りに座布団が置いてある単純なものだったが、テーブルの下が掘ってあって、その足元が畳だったのは意外だった。

 十二月の忘年会シーズンということもあって、座敷に大人数の団体が所狭しと並んでいるなか、一室を貸切状態のように二人だけで静かに食事を終えられたことは幸運だったのかもしれない。

「そろそろ出るか?」
 食後の一服を終え、コートに伸ばした手を吉原の言葉が遮った。
「なぁ、自分の子供ってのはそんなにかわいいか?」
 何の脈絡も無く突然投げられた吉原の言葉に、私は戸惑った。
 この質問も『独身体験』とかいうものの一つに数えられているのだろうか?
 吉原の表情からは何も読み取れなかった。
 急になんだよ、と問い返したかったが、私は素直に返事をすることにした。
「決まってるだろ、そんなことを訊くな」
 吉原の表情に起きた僅かな変化を、私は見逃さなかった。というよりも、見逃せなかった。

 ―― 納得いかない。

 と、そう書いてあるのだ。

「今、反抗期だろう? それでもかわいいと思えるのか?」
「自分もやったと思えば、仕方のないものだと思える」
作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近