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クリスマスお父さん

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●第七話

「そうそう、今日の晩飯だが……」
「朝からそんな話か?」

 コンビニで買った二個目のオニギリを食べ終わった後、吉原が話題を振ってきた。
 昨夜、妻が義父のところに行っていることを話した。
 妻が帰って来たとしても、食事を作るような体力はないだろうし、二、三日は義父のところにいることになるだろうという話になった。それで、翌日も外食ということになり、そのときに再びお付き合いをお願いしていたのだ。

「近いうちに行こうと思っていた店があるんだ。うまい肴料理を食わせてくれるらしい」
 吉原は立ちあがって「タバコを吸いに行かないか?」とタバコの箱を取り出した。

「そこは週末にしないか? 酒と一緒のほうが旨そうだ」
「週末には帰って来ているんじゃないのか?」
 妻のことだ。吉原にはまだ今朝の電話の話をしていない。
 吉原は続けた。
「それに、今週の週末はクリスマスだぞ? いいのか?」
「クリスマスがどうこういう歳でもないだろう」
 私はそう言いながらも苦笑するしかなかった。
 二日前と言っていることが違うのが自分で分かっていたからだ。

 反抗期の娘と帰省中の妻。
 残念だが、今年はクリスマスを家族で過ごすことを諦めるしかない。
 本当に本当に残念だが。

 私の苦笑いから何かを読み取ったのか、例のやらしい笑顔になっていた。
 やっとあきらめたか。とでも書いてあるような顔だった。

 たしかに、今年も残すところあと二週間を切ったことだし、久しぶりに独身気分を味わうのもいいかもしれない。

 そう決めてから吸ったタバコが妙にうまく感じたのは秘密にしておこう。

 特に妻には――。

「しばらく独身気分を堪能するかな……」
 私がそう言った直後、ジッポライターに火を点けたまま、私の顔を凝視する吉原が目に映った。
 そうして、うんうん。と、何かにうなずきながらタバコに火を点けた。

「そういうことなら、この俺に任せておけ」
 自信たっぷりに言い放った。こういうときの吉原は何かよからぬことを企んでいる。
 そして、私はこういうときの吉原のやらしい笑顔が大好きなのだ。
 吉原の言う『そういうこと』がどういうことなのか考えるのは止めておくことにした。

「たった今な、お前の独身体験指導員に着任したよ」
「なんだよそれ」

 吉原はなんだかとても嬉しそうに見えた。


作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近