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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑アナザー

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 奈那子は目だけを動かして自分の身体を観察した。変わったところはない。何も変わっていなかった。
 男は奈那子を傀儡に変えると言っていたが、どこも変わった様子はない。いったいどこが変わったというのか?
 そして、身体全身が動くようになった。
 腕を高く伸ばした奈那子はそのまま立ち上がった。
 奈那子は結局、本当に自分は一度死んでしまったのかわからなかった。もしかしたら、全部夢だったのかもしれない。でも、どこからが夢?
 辺りを見回した奈那子の瞳に壊れたフェンスが映し出された。
 フェンスが壊れているということは、香穂を殺してしまったところまでは現実なのかもしれない。
 では、香穂はその後で本当に生き返ったのか?
 答えが見つからないまま奈那子が空を見上げていると、全く誰もいないはずだった屋上に人の気配が突然した。
「紫苑がいると思ったのだが、いるのは小娘ひとりか」
 闇に同化している黒尽くめの男が立っていた。その男の周りにも黒尽くめの男が六名立っている。彼らはいったい何者なのか?
 リーダー格と思われる男が奈那子に近づいて来た。
「紫苑を見なかったか?」
 突然そんなことを言われても、さっぱりわからない奈那子は首を横に振った。
 男は目を見開いて奈那子を凝視した。その瞳は金色に輝き、まるで獣の瞳のようであった。
「我々を見られては、この娘も処分せねばな」
 奈那子はこの言葉を聴いて後ろに下がろうとした。だが、身体がそれに反抗して勝手に動き出した。奈那子の意思に逆らって身体が勝手に動いてしまったのだ。
 煌く線が目の前の男の横を通り過ぎ、奈那子は目を丸くした。自分がそれをしたことに驚いたのだ。
「あたしがやったの!?」
 奈那子の手から光の筋が放たれた。今度は外さなかった。光の筋は目の前にいる男の肩を切り裂き、鮮血が地面にほとばしった。
「くっ……紫苑か!」
 男がそう叫んだ瞬間、他の黒尽くめの者どもが奈那子にいっせいに襲い掛かって来た。
 自らの意思とは関係ない動きをする奈那子の身体はバク転をして後ろに下がった。奈那子はバク転などできないはずだった。
 黒い六つの影が動き、奈那子を取り囲んだ。
 前後左右、そして上からも敵が襲い掛かって来る。だが、逃げようとする奈那子だが、身体はそれを許してはくれなかった。
 奈那子の手が煌きを放った刹那、腕を飛び、脚が飛び、首が宙を舞った。
 悲惨な光景を目の当たりにして、奈那子は吐きそうになってしまった。
「わ、わたしがやったの!?」
「貴様、よくも!」
 最後に残ったリーダー格の男が怒りを露にした。
 バラバラに切断された塊から血が流れ出ていた。辺りは血の海と化している。
「ううっ……」
 鼻につく血の香りで奈那子の胃が大きく動いた。口に手を当てて思わず再び吐きそうになってしまったが、どうにか堪えることができた。男の手にはナイフが握られていた。
 男が奈那子に襲い掛かって来る。だが、奈那子はそれどころではなく、うつむいて死にそうな顔をしていた。
 ナイフが奈那子の身体に突き刺されようとしているが、奈那子は気づかない。だが、奈那子自身が気づかぬとも身体が反応した。
 奈那子の足が急に振り上げられ、男は腹に激痛を覚えながら後方に吹っ飛ばされた。
 男の身体は信じられないほど後ろに飛ばされていた。その距離、六メートルほど。奈那子には不可能なことだ。
 奈那子の手が煌きを放ち、空間に一筋の光が走った。そして、空間には夜よりも暗い闇色の線ができていた。空間が裂かれたのだ。
 裂かれた空間の傷は唸り、周りの空気を吸い込みながら広がっていき、やがて大きな裂け目を造り出した。
 闇色の裂け目から悲鳴が聴こえる。泣き声が聴こえる。呻き声が聴こえる。どれも苦痛に満ちている。
 奈那子の腕が前に伸び、口が勝手に開かれた。
「行け!」
 裂けた空間から〈闇〉が叫びながら飛び出した。それは男に襲い掛かった。
 〈闇〉は男の腕を掴み、足を掴み、胴までも掴み、身体中に絡みついた。
「な、何だこれは!?」
 男は〈闇〉を振り払おうとするが、すでに腕は〈闇〉に呑み込まれていた。
 〈闇〉が唸り声をあげると、男の身体は地面を引きずられて、空間の裂け目に呑み込まれていった。それと同時に辺りに散乱していた肉の塊も吸い込まれていき、地面には血が一滴も残ってはいなかった。
 空間の裂け目は閉じられ。奈那子は愕然とした。
 見てはいけないものを見てしまった。
 頭を抱えながら奈那子はふらふらと歩き出し、壊れたフェンスのところに向かった。
 綺麗とは決して言えない夜景が広がっている。
 奈那子は何かに引き寄せられるように下を覗いてしまった。
 あの時のように奈那子は絶句した。
 暗くてもなぜか見えた。遥か先の地面の上で血みどろになっている人、また香穂死んでいる。それを見た瞬間、奈那子は悲鳴をあげて気を失い屋上から再び転落した。

 ある日、二人の仲の良さそうな女子学生が楽しそうに歩いていた。
「ねえ、奈那子ちゃんあれ見てよ」
「なに、香穂?」
 人が集まる中心で人形遣いが劇を行っていた。
 二人はその光景を遠くから眺めながら通り過ぎて行った。
 そして、二人は顔を見合わせて不敵な笑みを浮かべたのだった。

 CASE01(完)