傀儡師紫苑アナザー
人ごみを掻き分け、ヴァージニアの手が桂木の肩に掛かった。
「逃がさないよ!」
ぎょっとした桂木が後ろを振り向いた。
「今度はおまえかっ!」
「あんたはあたしが殺すんだ!」
「クソッ!」
桂木は全身の力を込めてヴァージニアにタックルした。
後ろに飛ばされたヴァージニアには目もくれず、桂木が車道に飛び出して逃げる。
ヴァージニアの目が見開かれた。
「お父さん危ない!」
自分を呼ばれた桂木に耳にその言葉は届かなかった。
恐怖に顔を歪ませた桂木の身体を大型トラックが跳ね飛ばした。
激しい衝突音に歩行者たちの目がいっせいに向けられた。
人が宙を飛ばされている。
地面に叩きつけられた桂木にヴァージニアと愁斗が駆け寄った。
桂木の脈を取った愁斗が静かに告げる。
「即死だったらしいな」
「いいざまだよ」
吐き捨てたヴァージニアは愁斗に目を向けようとしなかった。
誰も呼んでいない救急車が事故から30秒も立たないうちから到着し、桂木の屍体を搬送していく。この救急車は桂木の腕の怪我で呼ばれた救急車だった。しかし、この救急車は本物ではなく、亜季菜の手が回った偽者の救急車だった。
愁斗の横に来た黒服の男が小さな声で告げる。
「桂木の脳が損傷を受けていないことを祈るのみです」
「僕は紫苑の回収をしてきます。手回しのほうをよろしくお願いします」
事件は呆気なく幕を下ろした。
ヴァージニアも戦う理由をなくし、人ごみの中に消えていった。
(完)
作品名:傀儡師紫苑アナザー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)