童謡とご隠居さん
「ご隠居さん、悲しい歌ですね」
「このあかいくつ は(垢 いくつ)なんだ。はいてたは(吐いてた)。
可愛そうになあ、日々貧困と重労働でだろう」
「はあ? で、いじんさんとどう繋がるんですかね」
「ああ、最初は大尽だったんだろう、作詞者の意図とは別にメロディーが出来てしまい、アクセントが変になることがある。それだろう。歌い継がれていくうちに いじんさんになったんだ」
「ご隠居さん、ちゃんと漢字を使って作詞してますよ」
「ああ、そうかい。じゃあ、大尽じゃいやらしく感じられるから異人さんとしたのだろう」
「それが大尽に見初められたんだろう、ま、ロリコンの大尽かな、あるいは女郎にさせるとか、昔、大飢饉の時など公然と行われていた筈だ」
「ご隠居さん、それだと横浜の埠頭から出て行くのが不自然ですが」
「ああ、それか、それは口実だろう。女の子の親を納得させるためにな。自分は海外にいつでも行ける大物だってことを吹聴してるんだ。当然女の子の親にお金を渡しているだろう」
「う~ん、ま、いいでしょう、次の青い眼になっては?」
「青い眼は比喩だろう、今頃はすっかり女郎か2号さんが板に付いているんだろうなあと、未だ続いている自分の垢と貧困の中であの女の子のことを考えている。大金持ちを見るたびに考えている、という歌なんだ」
「ご隠居さん、じゃあ、これは女の子を好きだった男の歌ですね」
「うん、泣けるだろう」
「ご隠居さん。なんだかよく分からないが、泣きたくなってきましたぁ」
(おしまい)